「ONSEI」による認知機能のチェックは、認知症の診断とは別物と考えていいのでしょうか。
増岡:はい。開発にあたって我々が目指したのは、「当人の認知機能が健常であること」を把握するツールの製作です。たとえば、医療機関では、認知症かどうか、または認知症の重症度を知るため、当社も提供しているようなさまざまな医療機器で精緻な検査と問診により診断を出します。しかし、現在、認知症の人と、その前ぶれと言われる軽度認知障害(MCI)の人は、1000万人近くいると言われています。そのため、医療の介入としてではなくヘルスケアの一環として、認知機能が健常であるという状態を知っておきたいというニーズに応えるべく「ONSEI」を開発しました。ですから、普段から継続的にチェックして、健常から「変化あり」となった段階や、普段から不安を抱えている場合は、医療機関で適切な診察を受けていただきたいと思います。
イメージとしては、血圧計のような位置づけでしょうか。
増岡:そうですね。家庭にある血圧計で血圧の数値が高かったというだけで、高血圧症と診断されることはありませんし、薬も処方されませんよね。「ONSEI」もそれと同じだと考えていただければと思います。ただし、なぜ家で血圧を測るかといえば、数値が正常であるかどうかを自身で継続して確認して、身体の変化を把握したいからですよね。「ONSEI」も認知機能を精度高く判断できますので、もし変化が出たら医療機関に足を運んでいただくことで、最も早い時期で認知症を発見することにつながると考えています。
では、認知機能の判別精度はどれくらい正確なのでしょうか?
増岡:約93%の正答率で軽度のアルツハイマー型認知症と健常者を判別することを論文に公刊しています。残り7%は正確に判別できないのかと思われるかもしれませんが、我々は「軽度」の認知症の方だけの音声データをAIに解析しています。もしそのデータに重度認知症の方の音声を加えれば数字的には判別精度を上げることは可能です。しかし、あくまでもヘルスケアのツールであることにこだわりたかったので、軽度の方たちのデータを使ったアルゴリズムでAI解析を行っています。そのうえでの93%ですから、これには大きな意味があると思っています。