仙台シニアネットクラブの皆さんのご協力を頂いて、シニアの方々がインターネットを利用する際に課題となる点などについて調査を行った結果を、事務局なりにまとめたレポートです。
以下に、レポート(プレゼンテーション資料)からテキスト部分を抜粋したものを掲載しています。
→ オリジナルのレポート(プレゼンテーション資料、PDF:834KB)はこちらから
この資料は、4章だてです。各章には番号がついた項目で、トピックスが区切られています。
1つの項目は、概ね2つの構成で成り立っています。最初に、その項目で最も主張したい内容が、一言で述べられています。その後、その内容を具体的に解説する内容が記述されています。具体的な解説の前には、適切な見出しが入っています。
インターネットから自分の欲しい情報を得るためには、多くの手順が必要となる。シニアのインターネット利用体験を分析するには、これらの手順を構造的に分解し、それぞれのハードルを明らかにすることが不可欠となる。
インターネットの利用環境は、3つに分けて考えることができる。
それぞれに、現在のシニアにとってハードルとなりうる要素が異なっている。
1の利用環境とは、高齢者本人とその周りの生活環境を指す。インターネットの回線環境やその契約形態、パソコンの所有権が高齢者本人にあるかどうかなど、個別の要素が利用のハードルになることが多い。また、家族の理解が得られているか、やパソコン操作を手助けしてくれる人の存在があるかどうかが、重要な要因となるケースもある。
2のパソコンについては、ハード面ソフト面とも、様々なハードルがある。マウス操作やキー入力、ディスプレーの色や文字の大きさ、ソフト操作の習熟や用語の理解などがあげられる。
3のタスク、つまりインターネットの操作については、情報検索の方法や情報の取捨選択、各サイトのユーザビリティなどが、シニアのインターネット利用のハードルとなりうる要素である。
高齢者の情報通信利用のハードルは、利用環境と設備の問題を中心とした「デジタルデバイド」と「ウェブアクセシビリティ」の2つに大別される。デジタルデバイドへの注目は高まっている一方、高齢者のウェブ利用において、どのような点が実際のハードルとなっているかは、正確に把握されていない。
この調査では、高齢者のウェブ利用において、実際にどのようなことがハードルとなっているかを、操作実験を通して具体的に把握し、ウェブアクセシビリティのポイントを分析することが目的である。
高齢者による、ウェブでの情報収集操作実験を実施することにより、以下の課題を探索するとともに、「高齢者にとってのウェブアクセシビリティ確保」のポイントを考察する
実際のインターネット利用に近づけるため、一般的な操作課題を設定し、その課題を実施する様子を観察するとともに、本人から課題の操作について意見や感想を聞くこととした。
インターネットの利用を、「情報選択特性」と「タスク実施特性」の2つの視点から分析できるよう、サイトを発見するまでの操作と、各サイトでの操作を分けて実施した。
東京に住む知人に、仙台名産「笹かまぼこ」をお歳暮として送りたいと思います。価格は1セット5000円程度を考えています。あなたは、インターネットで注文してみようと思い、パソコンを立ち上げました。
課題1は、思った情報をどうやって見つけ出すのか、つまり「情報選択特性」に注目する。インターネットは、欲しい情報を自分で効率的に見つけ出すことが活用の決め手。高齢者はどうやって見つけ出そうとするのかがポイント。
課題2は、発見したサイトで、実際に買い物をする操作ができるか、つまり「タスク実施特性」に注目する。サイトのユーザビリティの範疇になるため、ここではタスクの達成率を問題にすることはできない。しかし、操作途中で見られる、特徴的な操作がないかどうかを観察する。
検索サイトの中から、目的のサイトを2つ以上見つけ出す操作の中では、目的のサイトを発見するまでに、多くの戸惑いが見受けられた。それらのうち特徴的な操作をまとめると、以下の3点が挙げられる。
それぞれ3点について、以下で具体的な戸惑いの例を示す。
操作実験では、多くの人がインターネットで笹かまぼこを購入できる店舗を探すのに、意外に時間がかかっていた。ウェブサイトの検索テクニックには、個人差があるものの、2つ以上探せた人の平均的な操作時間は10分だった。
検索になれた人の場合、期待した検索結果が得られなければ、検索キーワードを変更し、適切な結果が得られるよう調整することがあるが、今回の実験では、そうした操作をする人は非常に少なかった。
検索をする際に入力するキーワードを表現する種類が豊富にありすぎる。
また、実際に知っている店舗名がわかっていても、必ずしも表示されない。(検索サイトに登録されてない、正しい商標名でない 等の理由)
こうした日本語の問題を踏まえた検索方法が望まれる。特に、高齢者の利用を想定した、検索サービスなどが期待される。
検索結果のリストの上位から順に、ページを表示して目的のページかを確認する。表示されるページが、必ずしもトップページでないことが多く、そのページの内容が目的の情報があるかを判断するのに手間取る人が数名みられた。
設定された課題とはまったく関係のないページを、どんどん深追いする人もいた。目的を見失ったわけではないが、検索結果の上位にあるという理由から、どこかに情報があると思い込み操作していた。
検索結果には、ページのタイトルと内容の一部が表示されるものが多いが、それらを参考にして調べている人は少ないようだった。
検索結果から、求めるページを選択しやすくするためには、ページのタイトルが適切に書かれていることが重要となる。 タイトルを手がかりに情報を探しやすくなる。
サイトの全体像を示すサイトマップ等に、簡単にいける工夫があれば、検索結果でページの途中が表示されても、サイト全体の目的や位置付けが理解しやすい。
検索結果の中から、目的のサイトを複数選択する課題であったため、最初の方に見つけたサイトがどれだったか忘れてしまうケースが、しばしば見受けられた。
一般に、パソコン操作になれた人では、複数のブラウザを意図的に表示させたり、ショートカットを作成するなど、最初に見つけたサイトを忘れない工夫をする。しかし、今回の調査では、複数のブラウザを使い分けて表示する人は、一人もいなかった。
実験では、エクスプローラーの「履歴」機能を利用している人が一名おり、他の人にくらべ効率的に検索結果から目的のサイトを選ぶことができていた。
高齢者は、1つのブラウザの中で、すべての作業を遂行する傾向が強い。複数のブラウザを表示して、切り換えて比較表示するといった操作は、ほとんど行わない。
また一般に、高齢者は短期記憶力が低下すると言われており、複雑な作業の途中では、作業目的や以前の操作結果を忘れてしまうことがある。
上記のことから、高齢者の操作特性に配慮した、検索やウェブ操作の支援ツール等の検討・利用の推奨が大切になる。
指定された2つのウェブサイトで、商品を購入するまでの操作を比較してもらった。操作の戸惑いは、それぞれのサイトデザインにより若干違いがある。原因となるデザインの要素により、主に以下のように5点にまとめることができる。
それぞれ5点について、以下で具体的な戸惑いの例を示す。
商品申し込みの入り口だけでなく、送料や代金支払方法など、消費者として知りたい情報がトップページのメニューとして適切に提供されているサイトでは、評価が高かった。
評判のよくないサイトでは、「どこから商品を買えばいいのか」や「買い物するために、ユーザー登録を求めており、敷居が高くて敬遠しそう」といった意見があった。
ボタン名と表示される内容が合っていないという指摘もあった。思ったのと違う内容だと疲れる、というような声もあった。
ECサイトでは、消費者が最も気にかけている、送料や代金支払い方法などの情報を適切なメニュー名で、わかりやすく提供することが不可欠。
サイトで提供する情報を、いかに利用者の立場でまとめて、ボタンとして提供するかが最も大切となる。
ボタン名は、内容を適切に表現したものである必要がある。適切でないものは、操作をした利用者に失望感を与える。
普段なじみのない英語やカタカナ語で表記されているボタン名は、どのような機能なのかが理解できないため、不安を感じたり、押すのを躊躇する、という意見があった。
実験の例では、トップページに戻るボタンが「Go to TOP」と表記されていたため、“戻るボタンがない不親切なサイト”と理解した人もいた。
また、実験以外の参加者の体験例では、マウスをボタンの上に持っていかないと、日本語が表示されないサイトがあり、「あやまって英語のページを表示してしまったのかと錯覚して非常に戸惑う」、という意見もあった。
ボタン名には、英語やカタカナ語を極力使わない。ボタンの内容を適切に表す、わかりやすい日本語で表現することが大切。
メニューボタンが少ないが、メニューの配置がわかりにくいという意見があった。
観察された様子では、商品一覧を探すために、最初に縦のメニューに注目するが、目的のメニューがなく、その後はじめて横のメニューに意識が移っていた。
縦にメニューボタンが並んでいるデザインになれた人が多く、まず最初に縦のメニューに意識が移る。縦と横にメニューを配置する時には、この“慣れ”に注意してデザインすることが大切。
高齢者にとっては、縦と横のメニューを同時に配置するのは、わかりやすいデザインとは言いにくい。
サイトによっては、リンクをクリックすると、新しいブラウザが開くものがある。新しいブラウザが開くと、ブラウザの“戻る”ボタン(一つ前の画面に戻る機能)は有効ではないが、多くの高齢者はこのことに戸惑いを感じていた。
高齢者にとっては、『なぜ、一つ前に表示されていた画面に戻るのに、“戻る”ボタンの時と、“バッテン(閉じるボタン)”の時があるのか、理解できない』とのことだ。 つまり、新しいブラウザが開いても、直前に見ていたサイトは、「一つ前の画面」であり、その画面に“戻る”ボタンが使えない理由が、理解できていない。
むやみに、新しいブラウザを開いて表示しないようにすることが重要。
あるサイトでは、ショッピングにともなう情報のやり取りを安全に行うために、SSL技術を使った、セキュリティの高いサービスを提供していた。このサイトにアクセスすると、警告メッセージが表示される。
実験では、複数の人が、このメッセージが表示されたため、この先のサイトの操作を断念していた。その理由は、「なんか、警告がでたので」というものだった。
本来、セキュリティが高いことは、利用者にとって歓迎すべきことなので、「警告」という表現とは距離がある。 よいことなのか、注意すべきことなのか、技術にくわしくない人でも、簡単に識別できるような注意喚起の表示が求められる。
観察された主なアクセシビリティ上の問題点を解決する方向性は、各ウェブサイト提供者自身が配慮すべき項目と、高齢者のウェブ利用を支援するサービスやツールに期待される項目の2つにわかれるが、「情報伝達の保証」という観点で見ると、より重要度の高い問題が、サイト提供者側に集中している。
観察された主な問題点 | 解決の方向性の分類 |
---|---|
A.目的とするサイトがすぐに得られるような、キーワードをうまく設定できない | 高齢者のウェブ利用を支援するサービスやツールの拡大に期待される項目 |
B.検索結果を選択して表示されるページが、目的とするページかどうかを判断するまでに時間がかかる | 各ウェブサイト提供者に配慮が求められる項目、でもあり、高齢者のウェブ利用を支援するサービスやツールの拡大に期待される項目、でもある |
C.検索結果から目的のサイトが1つ見つかったとしても、ほかの検索結果を見ているうちに、どれがそのサイトだったか忘れてしまう | 高齢者のウェブ利用を支援するサービスやツールの拡大に期待される項目 |
D.トップページのメニューボタンの数と名前がわかりやすさに大きく影響。消費者として必要な情報がすぐにわかる構成が好評 | 各ウェブサイト提供者に配慮が求められる項目 |
E.英語やカタカナ表記のボタン名は、わかりにくい原因に。操作に不安を感じるという意見も | 各ウェブサイト提供者に配慮が求められる項目 |
F.メニューボタンが少なくても、配置が不適切だとわかりにくいケースがある | 各ウェブサイト提供者に配慮が求められる項目 |
G.リンクボタンを押すと、新たにウィンドウが開くものでは、前の画面に戻る操作(ブラウザの「戻る」ボタン)が利用できず戸惑う | 各ウェブサイト提供者に配慮が求められる項目 |
H.ブラウザから、セキュリティ技術(SSL)で保護されていることを示す警告が出たが、意味が理解できずそれから先の操作を断念する | 高齢者のウェブ利用を支援するサービスやツールの拡大に期待される項目 |
観察された問題点の解決の方向性とWCAG1.0(ウェブアクセシビリティ・コンテンツ・ガイドライン)の項目は、必ずしもすべてに対応していない。WCAG がHTML言語の記述方法に傾倒しているのに対し、本実験から分析された課題は、いかに情報をわかりやすく整理して表現するか、といったユーザビリティの視点が中心である。
観察された問題点 | 問題解決の方向性 | 対応するWCAG項目 |
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C.検索結果を選択して表示されるページが、目的とするページかどうかを判断するまでに時間がかかる | ・タイトルを正しく入れる ・サイトマップ等、サイト全体の目的や位置付けを示す仕組みを提供する |
13.3 サイトの全体的な構成に関する情報(例えばサイトマップや目次など)を提供する【優先度2】 |
D.トップページのメニューボタンの数と名前がわかりやすさに大きく影響。消費者として必要な情報がすぐにわかる構成が好評 | ・提供する情報を利用者の立場でまとめ、メニューとして提供する ・メニュー名は、内容を適切に表現する |
13.1 各リンク部分は、その行き先が明確にわかるようにする【優先度2】 |
E.英語やカタカナ表記のボタン名は、わかりにくい原因に。操作に不安を感じるという意見も | ・ボタン名には、英語やカタカナ語を極力使わなず、わかりやすい日本語で表現する | (なし) |
F.メニューボタンが少なくても、配置が不適切だとわかりにくいケースがある | ・メニューを縦と横に同時に配置するときは、高齢者がこの形式のデザインに、あまり慣れていないことに留意す | 13.5 ナビゲーションのための仕組みが目立ってアクセスしやすくなるように、ナビゲーション・バーをつける【優先度3】 |
G.リンクボタンを押すと、新たにウィンドウが開くものでは、前の画面に戻る操作(ブラウザの「戻る」ボタン)が利用できず戸惑う | ・むやみに新しいブラウザを開いて表示しない | 10.1 ユーザーエージェントで新しいウィンドウを開かない設定ができるようになるまでは、ユーザーに知らせることなしに、新しいウィンドウを開いたり、現在のウィンドウを変更しないようにする【優先度2】 |
今回の実験で発見された課題は、WCAG1.0ですべてカバーされるわけではない。
高齢者におけるアクセシビリティ確保のポイントは、「いかにわかりやすく情報を整理して表現するか」にある。
米国のSageport社では、高齢者向けのインターネットサービスsagevisionを提供している。sagevisionは、高齢者の操作特性に考慮したサービスである。
主なサービスの一つは、よく吟味されたディレクトリサービス。各ページを表示しても、必ずsagevisonに戻るボタンが表示されるので、目的の情報でなかった場合でも、簡単に戻ることができる。