松山さんは、2022年度に「ICT機器を活用したオンラインの部活動指導員」として広島県立庄原特別支援学校の運動部で、陸上競技・やり投げを専門とする選手を4ヶ月間にわたり遠隔指導されました。どのように指導したのでしょうか。
松山:ICT機器内の「テレビ会議システム(Zoom)」を活用して指導を行いました。具体的には、タブレット端末やスマートフォンにインストールしたテレビ会議システムで映像と音声をインターネット通信で結ぶ取り組みです。まず映像と音声が繋がらないと、動作を伴う部活動の指導は始まりません。
定点で動きが収まる筋トレやダンスなどの活動であれば、「テレビ会議システム」のみで問題ありません。しかし、やり投げは移動を伴うため、定点の画角ではフレームアウトしてしまいます。そこで、「AI搭載型自動追尾三脚」を活用しました。実際に使った製品は、比較的安価で市販されているものですが、速いスピードで動きを追尾できるのでフレームアウトしません。
また、助言やコミュニケーションをとる音声のやり取りはICT機器のマイクとスピーカーを通じて行いますが、移動を伴う陸上競技では生徒がICT機器から離れることも多いため、音声が生徒に届かない場合も想定されます。そのたびに、音声が聞き取りやすい位置にICT機器を置いたり、動かしたりするのは大変です。そこで、マイク付きの「骨伝導ワイアレスイヤホン」を活用しています。この方法であれば、ICT機器のマイクやスピーカーに頼らず、動きながら耳に直接音声を届けることができるのでコミュニケーションに支障ありません。
自動追尾カメラ付きの三脚にICT機器を装着。ICT機器に映る映像をもとに指導する
自動で動きを追尾することによって視野が広がる
運動の妨げになりにくい「骨伝導ワイアレスイヤホン」
遠隔部活動のメリットについて教えてください。松山: 生徒には、居住している場所に関係なく専門的な技能トレーニングを受けることができるメリットがあると思います。特に、山間部や離島といった過疎地では、専門的にパラスポーツが指導できるコーチが不足している課題があります。一方、パラスポーツの指導方法を学んだコーチングライセンスの保持者は、都市部に集中しています。そのような状況であっても、都市部のコーチと過疎地の特別支援学校生が繋がれば、スポーツに親しみ、楽しめる場が広がるはずです。
このことからオンラインで行う部活動指導によって、地域格差の解消と、障害を有する生徒がスポーツ活動を行う場を拡大に寄与できる可能性があると考えています。
また、障害に関係なく、スポーツに対して情熱を持ちながらも、指導者の不足でスポーツをあきらめざるを得なかった生徒も多く存在すると思います。遠隔部活動指導は、そういった生徒の可能性を拓く方法にもなると思います。