こうした教材を開発した経緯についても教えてください。
脇坂:弊社がこの事業を始めたのは、役員の息子さんが自閉スペクトラム症だったことが大きなきっかけです。自閉スペクトラム症とは、言葉や表情などから相手の考えを読み取ることや自分の考えを伝えることが苦手で、特定のことに対して強い関心やこだわりを持つ傾向にある発達障害の一つです。
弊社役員の息子さんも他者とのコミュニケーションが苦手でした。そのため、住んでいる渋谷区の療育施設を中心に、都内の大学附属病院や国立の療育センターなどを利用しながら、その子なりに成長発達できるよう、さまざまな支援を受けていたんですね。私もときどき、役員から息子さんの成長や療育について話を伺っていたのですが、ふと疑問を感じてしまったんです。病院や医師の数が少ない地方では、発達障害の子どもへの支援はどうなっているのだろうと。
都内であれば、発達障害の子どもに対する充実した支援があります。しかし、地方ではそもそも支援を受けられなかったり、数少ない選択肢の中で何とか療育を受けていたりと、困り果てているご家庭も多いのではないかと思いました。
それならば我々の得意領域を活かし、ゲームのように楽しみながら運動や学習について反復訓練できるようなソフトを開発すれば、発達障害の子どもたちが全国どこででも適切な療育を受けられるようになるかもしれないと思ったのです。それで、発達障害の子どもに向けた教育ソフトの開発を手がけることに決めました。
場所にとらわれずに、有効なトレーニング効果を期待できるとなれば、当事者の子どもたちやご家族は非常に助かりますね。最後に、発達障害や教育の領域におけるICTの可能性や期待感について、脇坂さんの考えをお聞かせください。
脇坂:教育や福祉の分野では人手不足も相まって、これからさらにICT活用が進むのではないでしょうか。特に私たちが現在主軸としている福祉業界では、ICT化した方が便利になる部分は多いと思います。
ただ、私自身はソフトの企画・開発を行う者として、必ずしもICT化に拘っているわけではありません。本当に良いサービスであれば、アナログな仕組みを使用していても、良いものだと感じられるはずです。大切なことは、何をしたいのか。目的の部分だと思います。今後も発達障害の子どもや家庭で抱える課題と向き合いながら、その課題に最適な教育ソフトの開発を続けていければと考えています。