平成22年度、総務省消防庁において「聴覚・言語機能障がいに対応した緊急通報技術に関する検討会」が開催されました。検討の結果、聴覚・言語機能障がいの人の主要コミュニケーションツールである携帯電話・スマートフォンからパケット通信を利用した緊急通報の仕組みを、民間活力により整備することが望ましいとの提言が成されることとなりました。この提言を受け、民間活力を中心に、産官学が連携して、聴覚・言語機能障がいに対応した緊急通報技術の開発を推進し、実用化を図ることとなりました。(後に同緊急通報技術は研究機関により“NET119”と命名)
代表研究機関として、TTC(一般社団法人情報通信技術委員会)が中心となり、学識経験者、全国消防長会、聴覚障がい者、指令台メーカー、通信事業、弊社等が共同研究機関として、「大規模災害及び、聴覚・言語機能障がいに対応可能なスマートフォン及び通信を組み合わせた、新たな緊急システム」を検討することになりました。
実際には、弊社はこの2年前から「NET119緊急通報システム」の前身である「Web119緊急通報サービス」を始めておりましたが、実は全国の消防は、Web119どころか、メール119ですら導入している消防もまばらな状況でした。しかし、Web119やNET119が口コミで消防業界に広がって行く中で「もう、メール119の時代じゃないよね」という意識が浸透し始めた頃であり、消防業界全体が新しいシステムについて議論するちょうどいい時期でもありました。
TCCとの共同研究では、基本仕様書にある技術に、私たち事業者が自分たちの技術を付加して全部盛り込んだ上で、足したり引いたりを繰り返し、検討を重ねました。その際、システム設計の根底にあったのは、「ユニバーサルデザイン」であることはもちろん、聴覚や言語に障がいのある方に特有の事情に即した機能にしていくということです。
NET119 緊急通報システムのトップページ(iPhone)
そこで第一に考えたのは「とにかくシンプルな操作方法にすること」です。いくら高機能でも、ボタンをいくつも押さないと救護に来てくれないとなると、通報者の不安は高まるばかりです。3タッチ、4タッチで災害情報が正確に伝えられなければ使い物にならないということで、いろいろなものを削ぎ落として操作手順をシンプルにしました。
第二に、「画面デザインの工夫」です。例えば、「緊急通報」画面では「救急」「火事」「その他」のボタンの色を変えたり振り仮名をふるのはもちろんですが、その中で「救急」が一番大きくデザインされています。なぜなら119番通報の90%以上が「救急」だからです。
第三に、「練習が出来ること」です。119番通報をするという経験は、一生に一度あるかないかだと思います。いざという時に「あれ、なんだっけ」というようなことをなくそうということで練習ができます。消防側には通報者からの通報は入りますがサイレンは鳴りません。チャットの練習はロボットが対応します。
さらに、欠かすことができないのは、通報を受ける側の消防の利便性追求です。
まず、第一の利点は「災害発生時の位置情報が正確に把握できること」です。これは、救急車や消防車を1秒でも早く出すために最も必要な情報です。
第二は利用方法で説明した「音声入力機能」、そして第三が「保留機能」です。これは、「まるで電話をしているような環境を」という思いから実現しました。これらの機能は、消防側はもちろん、通報者にとっても非常に安心感を得られる有益なものとなっています。