「魔法のプロジェクト」は、障害があると診断されている子もそうでない子も含め、日常生活の中で何らかの困難を抱えているお子さんの学びにくさに、テクノロジーを使って向き合っていくことを実践しているプロジェクトです。ここでいうテクノロジーとは、情報端末機器のことを言い、たとえばタブレット式端末やスマートフォン、携帯電話などを指します。これらの情報端末機器を利用して学びを支援しています。
同じような取り組みをしている組織に私がアドバイザリー顧問を務めるDO-IT Japanがありますが、こちらは、子どもたち自身が「こうしたい」という思いを持ち、それを実現するためのハードルの超え方を教える活動をしているのに対し、魔法のプロジェクトでは、どのようにすればいいかを先生たちが考えていきます。
魔法のプロジェクトの始まりは、ガラパゴス携帯が主流だった2009年に、色々な機能のある端末を子どもに貸し出すことができないかということでスタートした「魔法のポケット」という取り組みでした。その後、2011年にアップル社のiPadが発売された際、「ろう学校にiPadを配布してはどうか」と、ソフトバンクグループ株式会社の孫 正義代表取締役社長のTwitterに投げかけた一般ユーザーの一言をきっかけに、「魔法のふでばこ」プロジェクトが発足しました。iPadはほかの端末と比べ、ユーザビリティ、アクセシビリティともに優れており、支援が必要な方にとって、これまで難しかったことの多くが可能になりました。2012年の「魔法のじゅうたん」プロジェクトではカメラ機能が付いたiPad2を導入し、記憶の補助として写真を活用することで、可能性が広がったと感じています。また、Siriによる音声入力も大きなターニングポイントであり、2015年度は初めてウインドウズを導入しました。使用するアプリについても慎重に扱っており、新しいアプリを探すことを競うのではなく、それぞれの子の困り感にあった物を定番から最新の物まで吟味して選択しています。
ここ数年、肢体不自由や知的障がいなど障がいがあることがわかりやすいお子さんだけではなく、昔は単に勉強ができないと見過ごされていた学習障がいをはじめとする、目に見えない障がいや特性のある子たちにまで支援の幅が広がっています。「魔法のふでばこプロジェクト」当時の参加校は特別支援学校がほとんどでしたが、現在の「魔法の宿題」では参加約70校のうち、通常学校が10を超え、大学や就労訓練所のほか幼稚園にも参加いただいています。このプロジェクトを行っていく上で、私たちが絶対に守らなくてはいけないことは、主語はあくまでも子どもだということ。子どもたちのために、先生たちがこのプロジェクトに関わることで、その子が少しでもよい状態になることを担保しなければならないと考えています。
学習支援マニュアル(携帯情報端末の活用事例集)とこれまでの活動をまとめた書籍