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日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)の活動と遠隔情報保障(4/4)

4 遠隔情報保障システム T-TAC Caption

  このモバイル型遠隔情報保障システムは利用者と話者が1つずつスマートフォンを持つだけの簡略なシステムで、セッティングも比較的容易で、人為的なミスを最小限に抑えられるように開発しました。しかし、使う人たちの多くの要望をかなり抑えて作り上げたものなので、長い間使っていると、どうしても直してもらいたいという個所がでてきました。我慢してもらったものの中には、致命的なものもあり、それが音質でした。電話回線を使っての音声なので、先生の発話内容をうまく聞き取ることが難しいというところです。先生が明瞭にゆっくり話してくれれば問題ないのですが、原音声が悪いと、いくら保障者側で頑張っても正しく文字化できないわけです。また、セッティングが簡単になったとはいえ、保障者側にある程度のパソコンやインターネットの知識が必要だったので、このシステムに精通している人しか担当できないという問題点もありました。

  それで、音質を改善し、保障者側にかかる技術的な負荷を取り除くシステムの開発を目指しました。それが T-TAC Captionです。

T-TAC Captionを使った遠隔情報保障システムの概念図(筑波技術大学 三好茂樹准教授提供)
T-TAC Captionを使った遠隔情報保障システムの概念図(筑波技術大学 三好茂樹准教授提供)

  T-TAC Captionでは、利用者側の機器は主にiOS もしくはアンドロイドOS搭載のスマートフォン、タブレットです。そこにT-TAC Captionのアプリをインストールすることで利用が可能になります。情報保障者用の機材はインターネット接続可能な環境とパソコン1台のみです。複数の情報保障者で利用(字幕入力)したい場合には、その分だけ台数が増えます。保障者専用のT-TAC Captionウェッブサイトへパソコンのブラウザからアクセスすると、ブラウザ画面に利用者側のT-TAC Captionアプリから送られてきた音声、画像が表示され、リアルタイムに字幕の作成および送信が可能となります。

  このシステムでは、プログラミングによって音質改善を図っているため、モバイル型に比べ音質がすごくよくなりました。小さな音でも必ず送れます。小さくてもボリュームを上げれば、復元できます。モバイル型では、小さな音は無音になってしまうので、復元できませんでした。先生の音声は、基本的にタブレットなどの内蔵マイクで送りますが、タブレットの画面上には音声のレベルメーターが付いています。聞こえない学生はレベルメーターを見ることで、今、先生が話をしているか、黙っているのかどうかが分かり、安心感が持てます。また、利用者側から内蔵のカメラを利用して、教室内の映像なども保障者側に送れますので、保障者側でも講義の雰囲気なども分かり、入力がスムーズに行えます。

T-TAC Captionで使われる利用者用アプリの例(筑波技術大学 三好茂樹准教授提供)
T-TAC Captionで使われる利用者用アプリの例(筑波技術大学 三好茂樹准教授提供)

  情報保障者がそれぞれ在宅で入力できるようになったのも大きな改善点です。

 モバイル型では保障者は1つの場所に集まって入力しなければならなったのですが、このシステムでは同じ場所にいる必要はなくなりました。情報保障は通常2人で1つの文章を作り上げていく連係入力がスタンダードですが、それは互いに入力の様子を見ながら、自分は次どこから入力したらいいのかな、と判断して行います。

 T-TAC Captionでは、別々の場所で連係入力している他の人の文字も画面でリアルタイムに見られるので、問題なく入力が行えます。例えば、聴覚障害学生の教育実習では、これまで支援する学生も一緒に実習先の学校に付いていき、一日中支援しなければなりませんでしたが、支援の学生は大学に残ったままで、それぞれが空いた時間に支援するということも可能になりました。使った学生からも、教育実習で特に役立ったという声がありました。

  さらに、インターネットのデータ通信のみで行いますので、無線LANを利用できる環境にあれば、モバイル型と異なり、携帯キャリアとの契約は必要でなくなります。これは特に大学にとっては有利で、学内LANがあれば、通信コストをかけずに、遠隔情報保障ができることになります。ここはかなり大きいですね。また、教育実習などで、無線LANがないところでは、通信カードを持っていけば利用できます。運用上技術的に難しいところは、すべてサーバー側に圧縮しましたので、使う人は技術的な負荷も「モバイル型遠隔情報保障システム」と比較して,かなり無くなったと思います。

  T-TAC Captionは作り上げてから2年が経過しました。これまで600時間以上の運用実績があります。PEPNet-Japanの連携大学だけでなく、一般の中学校や高校で学ぶ聞こえない生徒さんに対しても使われています。

  これまでは、システムが安定的に作動するようなプログラミングの改良に取り組んでいました。今後はパスワードの設定で、それぞれの大学が自由に接続先のチャンネルを増やしたりすることができるようにするなど、使う人がほしいと思うような機能の付加も簡便さが失われないように注意しながら考えていきたいと思っています。

 

取材日:
2014年11月9日、18日
取材協力:
PEPNet-Japan事務局

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