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ICT時代だからこその「ヘレンケラースマホ」
-可能性への挑戦! 人間の新しい情報チャネルは、盲ろう者用電話の体表点字から- (2/4)

2 盲ろう者のコミュニケーションの可能性 ヘレンケラースマホの活用方法

【点字と体表点字の説明】
  ここで、「点字」と「体表点字」*2とを説明しておきます。 (以降の説明では、ルイ・ブライユによる「指先で読む点字」を単に「点字」と呼び、「体表点字」と区別しています。)

「点字」は、駅の乗車券販売機や階段の手すりに書かれている指先で触れて読む文字です。1825年、フランスの視覚障害の少年、ルイ・ブライユにより発明されました。多くは、紙に書かれ、手紙や点字本で利用されています。点字1文字は、マスとも呼ばれ、横約5ミリ、縦7.5ミリにほぼ固定され、点字の1点から6点までのゴマ粒ほどのものを、指先の触覚で読むのが、この点字です。この1マスの中の1点から6点までの点は、横に2点、縦に3段の所定の位置に置かれます。

【出力方法の「体表点字」】
「体表点字」は、点字の1点が百円コインほどの大きさで、通電されることにより振動し、点字の1点となり、1点から6点までを配列して点字になります。マスの大きさは、葉書1枚ぐらいから、手を伸ばした全身の大きさまであります。もし、何かの障害で、寝たきりの人であれば、片足の裏の内側と外側に3点ずつ振動体を付ければ、点字が読めるのです。点字には、仮名、英字、数字などがあるので、基本的にそのほかの何語でも読めるのです。点字も体表点字も、共に6点までの点からなり、その配置の形が同じなら同じ文字です。

  体表点字では、横2点、縦に3段の6点の点字を、2個の振動体を時間的に少しずらして上段、中段、下段の順に3回の振動で、6点の点字を表現することができます。これを2点式体表点字といいます。利用例としては、骨伝導ヘッドホンの両側のスピーカーで、首や膝のやや上方などに装着し、その振動機能で点字を読みます。また、時計型ウェアラブル端末なら、両手の手首に付ければ、これを振動させて、2点式体表点字として表現することも可能と思われます。

  一方、振動体が6個あれば、6点式体表点字になります。6点式は、2点式の3倍の速度で点字を読めるため、この装置が最も理想的です。

  また、スマホそのものの振動を1点とし、1点の「あ」なら1回の振動、点が6点の「め」なら6回の振動というように1点式体表点字として表現することもできます。この場合、点のないところは、短い振動にします。特別の振動体を使わないので便利ですが、読みに時間がかかるため、やはり、実用的な読みには、6点式、あるいは、2点式がよいと思います。

骨伝導ヘッドフォンを装着したところ。振動による<体表点字>によって、文字を表現する。
  骨伝導ヘッドフォンを装着したところ。振動による<体表点字>によって、文字を表現する。

【体表点字の可能性(聴覚の音声、視覚の通常の文字に加わる、全身の触覚からの新たな情報チャネル)】
  現在実用されている電話は、アレクサンダー・グラハム・ベルによって発明されました。それは、耳の不自由な家族のために作っていた聴覚装置から生まれたものです。このように、障害者や病人のための開発が、一般の人に広く使われるようになった例は多く、ヘレンケラースマホにも、その可能性があります。

「ヘレンケラースマホ」が利用している「体表点字」は、新たに一般の人の情報チャネルとして誕生する可能性のあるものだと考えています。
(参考:◆長谷川 貞夫 20070916 「人間の新しい文字情報チャンネルとしての2点式体表点字システム」 障害学会第4回大会 於:立命館大学)

  体表点字は、指で読む点字の延長線上の発明ですが、点字の大きさ、触覚の与え方、情報を与える場面などは指先で読む点字と異なり、だからこそ、その存在の意義は大きいのです。また、通常の点字と形が同じため、文字としての意味は全く同じであり、これまでの点字の学習者は、たやすく、体表点字の機能を利用できます。また、点字および体表点字は、規則的、合理的に作られているので、視覚には障害のない一般の人も、容易に習得できます。

  例えば、道を歩いていて、「止まれ!」とか、「右へ!」などの情報が、音や光のように体表点字として体に入って来れば、それが脳ですぐに理解できます。耳と目以外に情報チャネルが増えることの意義は、想像を超えるはかりしれないものがあると考えています。

体表点字を用いたアプリ開発の様子。
  体表点字を用いたアプリ開発の様子。

【入力方法の「スマート点字」
  通常、視覚のある人が指を用い、スマホなどのタッチ画面で文字入力をする場合、画面に描かれたソフトテンキーなどに対して行ないます。ところが、盲ろう者や視覚障害者は、そのソフトテンキーが見えないため画面での文字入力ができません。それで、点字の原理を応用し、タッチ画面に3分の2ぐらいの自由領域を設けて、そこでソフトキーと関係なく文字入力ができるようにしました*3。入力方法は点字であっても、ただちに通常の文字も表示されるため、一般の方法と同じように文字入力ができます。私が開発した「六点漢字体系*4」という点字を使えば、「漢字・仮名混じり文」を直接書くこともできます。

アプリ「スマート点字」の表示画面。下の緑の部分に入力することで、点字を表現する。
  アプリ「スマート点字」の表示画面。下の緑の部分に入力することで、点字を表現する。

  スマート点字では、1マス6点の点字を、左右2点ずつ上段・中段・下段の順に3回の操作で入力します。具体的に説明すると以下のとおりです。

  点字の1マスで、上段の左に点を入力する場合は、左フリック、右なら右フリック、両側なら、左でも右でもなく縦フリック、両側に点がなければ、タップ1回とします。 この操作を、上・中・下段の3段に行なえば、点字1マスの形、つまり、64パタ−ンの符号を入力できます。この符号は、英字、数字、仮名、それから点字を採用している全世界の各言語の文字に対応しています。

  この入力操作は、出力となる体表点字の振動パタンに対応しています。左側に点を入力するため、左方向にフリックする場合は、体表点字では左の点が振動します。右にフリックする場合は、右の点が振動します。同じ段の左右に点を入力する場合は、左でも、右でもない縦にフリックしますが、この場合は、両側の点が振動します。その段の両側に点がない場合は、タップしますが、振動では、点のある振動と明らかに区別できる、ごく短い振動となります。

  点字の入力方法としては、このスマート点字開発の前に、IPPITSU(一筆)*5という別の入力方法も開発しています。これは、画面に、分かりやすい点字の6点の位置を設け、指を点字の形に滑らせ、指を離したところで点字の形が決まるというものです。これは「一筆」(ひとふで)書きのように指を滑らせて点字をかくものですが、スマート点字は、上段、中段、下段の順に言わば「三筆」(さんふで)で書く点字ということになります。今後、利用される方の状況に応じて便利なものを選択頂ければ良いと思います。

【一般のアプリと体表点字を相互に継ぐUniChatX(ユニチャットエックス)】
  Androidのスマホには、「ハングアウト」というチャットのアプリがあります。これで、通常の文字を書いて、ヘレンケラースマホ利用の盲ろう者に送信すると、盲ろう者は、これを体表点字で読むことができます。また、逆に、盲ろう者がスマート点字で書いて、それをハングアウト利用の人に送ると、通常の文字で届きます。これを支えるのが、UniChatXです。UniChatXとスマート点字は、GooglePlayから無料でダウンロードできます。できれば、2点式体表点字で読むために、骨伝導ヘッドホンを用いるのがよいですが、これがなくても、スマホ本体が点字の形に合わせて振動するので、1点式体表点字で読むこともできます。

【盲ろう者同士など、指点字の電話】
  指点字※ を使える人同士であれば、盲ろう者同士、あるいは家族、通訳介助者、ボランティアなどと、同じ場所で互いの手を重ねて指点字で会話することができます。これは、対面している場合の盲ろう者の優れた会話方式です。しかし、残念ながら少しでも離れて指が触れられない人同士では、指点字による筆談はできません。しかし、ヘレンケラースマホにより、盲ろう者同士でもスマート点字と体表点字で電話することができます。それは、互いに自宅に帰ってからなど、離れていてもです。

※指点字とは、盲ろう者のコミュニケーション手段の一つとして、両手の人差し指・中指・薬指、計6本の指を点字の6つの点に見立てて指で点字を打つことにより意思を伝達する手法。

長谷川さんによるヘレンケラー・スマホの使用デモンストレーション
(動画を見る場合は上の画面の左下の三角矢印をクリックしてください)

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