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日本で唯一の視覚障害者専用放送局 JBS日本福祉放送(5/5)

5 将来にむけて

  最大の課題は資金面です。リスナーからはお金をいただいていないので、収入は一般の方や企業からの寄付金と財団などからの助成金がほとんどです。以前は大手企業などからかなり大きな寄付もありましたが、今では100万円の寄付をしていただくにも大きなエネルギーが必要で、年々厳しくなっています。CMもあることはありますが、小口のスポンサーで少額です。資金不足から、放送のコンテンツの質、量とも弱くなっています。東京は集められる情報量も多いし、スタジオは必要なのですが、閉鎖せざるを得ませんでしたし、番組の本数も最盛期の週約50本から10本程度に減っています。これまでは視覚障害などに関連する主な団体の会議やシンポジウムなどを完全中継することも多かったのですが、今はかなり減っています。これに伴い、リスナーも減少しており、現在は約8000人です。

  点字図書館には公の補助金制度があり、最低3人分の人件費がまかなえます。この放送事業にもせめて点字図書館並の施策的支援がほしいですね。視覚障害者の90%以上は音声情報に依存しています。点字を使いこなせる人は5〜10%程度、パソコンを使いこなせる人も同程度というところでしょうか。それだけに音声情報のサービスの仕組みはきちっとしておく必要があるのです。最近、日本でもディスレクシア(知的に問題は全くないものの読み書きに著しい困難が伴う症状。 一種の学習障害。)の人がそこそこいるということが分かってきました。アメリカでは10%程度いると言われています。日本はそこまでいかないにしても、それらの人びとも視野に入れて、音声情報のサービスの充実を考える必要があると思っています。

  もう一つは、著作権料や利用の範囲に関する著作権法の改正に象徴される施策的な支援ですね。新聞の音訳については、一部を除いて新聞社に著作権料を支払っています。しかし、利用について、コラムはダメ、署名記事はダメ、といったように色んな制約が付いていて、私たちには選択権がないのです。一面の下にあるコラムや有名人のコラムなどは一番面白い記事じゃないですか。リスナーが関心を持ち、聴き入るのはこうした記事ですから。

  今、文化庁と話し合っています。文化庁長官の承認により著作権問題を解決して、視覚障害者に自由に情報を届けたいのです。このことは、文化庁の判断で可能なのです。ほんとうは著作権法を改正して、視覚に障害がある人びとへの放送による著作物の提供は、基本的に著作権者の承認なくできるようにしてほしいですが、時間がかかるので、長官承認で今を超えたいのです。日本だけです、自由な利用が認められていないのは。障害者の情報提供に最も公の援助があるのはオーストラリアですね。著作権料はフリーですし、放送での提供については連邦政府が初期費用を負担し、各州がランニングコストを負担しています。しかも、対象は何らかの事情で活字の情報にアクセスしにくい「インクプリント・ハンディキャップ」のある人という考え方で、視覚障害だけでなく、ディスレクシアの人、さらに病気などで一時的に活字にアクセスできない人はもちろん、運転中や料理中の一般の人びとも利用できます。アメリカでも非営利を前提に、著作物の自由な利用が認められています。

  「マラケシュ条約」という条約があります。国内法で障害者への情報サービスの規定を持っている国同士で協力して、コンテンツの国際的な行き来を容易にしようという条約です。モロッコで開かれた「世界知的所有権機関」の会議で署名されたのでこの名があります。日本も署名していて、近く批准しようと文化庁が動いていますが、文化庁との話の中で、「この際、日本の視覚障害者向け放送の著作権の状況を何とかしませんか」と言っています。具体的には、著作権法の規定などを変えて、より充実した情報提供ができるようにしてほしいということです。

 

取材日:
2014年12月
取材協力:
JBS日本福祉放送

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