開発から商品化に至るまでには、多くの視覚障害者の方々の協力を得て実用実験を行い、表示テキストのクオリティアップやスピードの調整など、主に使い勝手の部分について改善していきました。
中でも難しかったのが、カラオケの歌詞特有の「当て字」問題です。カラオケ装置から送られる歌詞データというのは、漢字仮名交じりのデータなので、歌詞を点訳するためには、いったん全てひらがなに変換しなければなりません。でも、漢字というのは、ただでさえ様々な読み方をするものですが、さらにカラオケの歌詞というのは、とても「当て字」が多いのです。例えば「女」と書いて「ひと」と読むとか、「物語」と書いて「すとーりー」とか、「涙」は場合によっては「なだ」と読むとか。
視覚障害者の方に試しに使っていただいたところ、歌詞に当て字がこんなに多用されているということに、非常に驚かれていておりました。これは、私も指摘されるまであまり意識していなかった部分です。ならば、既存の点訳辞書を使用するのではなく、カラオケ用の辞書を別途作成する必要があるだろうと。ここからは本当に人海戦術で、当て字を発見するたびに1語1語登録しなおす、という作業を繰り返していきました。ただし、現在対応している12〜13万もの曲すべてを100%チェックすることは不可能ですから、現実的には、チェックをかけられたものから順次更新していっているような状況です。
でもありがたいことに、実際にカラオケ店で利用された方や、日本全国の福祉機器展などに出展した際に体験された方から、「ここおかしいね」と、教えていただくことが多いのです。「おかしいじゃないか」とお怒りになる方はあまりいらっしゃらなく、逆に私たちの開発に協力していただいている。そういう意味で、この製品は、皆さんの力で作られていると言えるものなのです。
あとは、いただいたご要望をもとに新たに追加した機能もあります。これも各地の展示会で伺ったご意見なのですが、「点字で歌詞を読むだけではなく、自分たちで曲を選択することはできないだろうか」と。選曲に関して、今はほとんどのカラオケ店がタッチパネル方式を採用していますが、音声案内がないため、視覚障害者の方は自分で曲を選ぶことができない、とおっしゃるのです。
そこでエクシング社にご協力いただき、インターネット上で簡単に曲が選べるようなウェブサイトを作っていただきました。そこに携帯電話(※)や自宅のパソコンのスクリーンリーダーを使ってアクセスすると、曲の番号を調べることができるだけではなく、カラオケ装置の赤外線を受信する部分に携帯を近づけてその番号を「送信」とすると、選曲の登録ができるようになったのです。
(※)docomo「らくらくホン」にて対応
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原本作成日: 2011年3月22日; 更新日: 2019年8月23日;