今後、アクセシビリティを高めるために必要なことは何だとお考えでしょうか?
大島:マイクロソフトには、設計段階からアクセシブルにしていこうという設計思想が根付いています。私たちは、アクセシビリティは恒久的な障碍を持っている人のためだけのものではない、という考え方をしています。たとえば、子どもを抱っこしているとき、一時的なケガをしているときなど、片手で操作したいと思うことがあるかもしれません。障碍のある方に対する社会的責任はもちろんありますが、それは義務でありながらビジネスチャンスでもあると考えています。そうした意味で、マイクロソフトの製品や技術は、一般的に障碍に数えられないような困りごとを含めて、すべての人に役立つものでありたい、というのが私の想いです。
その一方で、本当に必要としている人に情報を適切に届けることの難しさも痛感しています。たとえば、2 つ以上のキーを同時に押すことが困難であれば、固定キーという機能を活用できます。まったくパソコンを使わない方が、このような機能を知らないのは仕方のない事かもしれませんが、日常的にパソコンを使っている方でもまだまだ知らない機能が多いというのが現状です。
福祉とテクノロジーの両方に精通している人材を育成するアシスティブテクノロジー・アドバイザー育成事業に協力しているのですが、アクセシビリティの浸透には、テクノロジーと人の両輪が不可欠だと感じています。この事業は、高等専門学校の先生も参加されており、今後「技術で世の中を変えていきたい」という次世代の子どもたちにも、アクセシビリティの知見を広げていければと考えています。
もとはマーケティングを担当していた大島さん。全盲の同僚の影響で、自らアクセシビリティ担当を志願
そのような取り組みによって、日本の社会はどのように変わると思われますか?
大島:職場環境がインクルーシブなものに変わるきっかけになると思います。今の日本企業は、以前に比べて障碍者雇用は進んでいると思います。ところが、障碍のある社員の方が本当に活躍できているのかというとそうでもなく、職場の情報システムがボトルネックとなって、働きにくい状況にあることも少なくありません。システムのせいで、その人の可能性を閉ざしてしまうのはもったいないことです。障碍とテクノロジーの両方の知識を持つ人が増えることで、そのような残念な状況を変えることができると思います。企業全体としてアクセシブルな製品を使っていただくことで、障碍のある社員だけが違うシステムを利用するという“仲間外れ”がなくなります。ですので、人事部門の方や情報システム部門の方にも、マイクロソフト製品のアクセシビリティ機能を知っていただき、日本企業のインクルーシブな職場環境の実現に寄与したい、と強く思っています。