インターネットの普及が進むにつれて、ウェブアクセシビリティの確保は、重要な課題として国内外で注目されています。
ここでは、主な取組みとして、ウェブアクセシビリティの点検ツールのほか、ウェブアクセシビリティに関する指針や基準の策定及び取組みについて海外の例を中心に、紹介しています。
WAIは、Web技術の標準化と推進を目的とした国際コンソーシアムであるW3Cの中に設置された、ウェブアクセシビリティに関する検討グループです。1999年にウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG1.0)を勧告しました。(大藤 幹氏によるWCAG1.0の日本語訳)。
WCAG1.0は、公開から5年以上が経過し現在のウェブ環境にそぐわない部分が出てきています。そのためWAIは、2005年度中の勧告を目指してWCAG2.0の作成に取り組んでいます。現在までに公開されているのは、検討段階の草案です。
米国リハビリテーション法第508条では、連邦政府が調達・使用する製品や、一般市民に提供する情報・サービスについて、障害を持つ人が障害を持たない人と同等にアクセスできるようにするよう定めています。
508条は、1998年に改正され、連邦政府機関がウェブで提供する情報について、一定レベル以上のアクセシビリティを満たすことが義務付けられました。満たすべきアクセシビリティの内容は、連邦政府アクセス委員会が2000年に12月に最終版を公示した「電子・情報技術アクセシビリティ基準(Electronic and Information Technology Accessibility Standards)」で示されています。
障害者向けの情報技術開発・普及に取り組んでいる米国のNPO「CAST」(Center of Applied Special Technology)が提供しているアクセシビリティ点検ツールです。
Bobbyは、WAIのWCAG1.0に従って、ウェブページのアクセシビリティをチェックし、WCAGに合わない点を見つけてレポートしてくれます。Bobbyは、CASTのウェブサイトで、オンライン・アプリケーションとして提供されているほか、ダウンロードして使えるパソコン用プログラムも提供されています。
日本語のウェブページでもチェックしてくれますが、メニューやレポートは英語表記です。
A-Promptは、トロント大学とウィスコンシン大学が共同で開発した、ウェブアクセシビリティの点検ツールです。
A-Promptは、パソコン上で動作するソフトウェアで、WCAG1.0に従ってウェブページの問題点を見つけてレポートしてくれる他、発見した問題点を解決する手順もガイドしてくれます。
アメリカでは、1998年に、連邦政府による開発、調達、維持に使用する電子・情報技術に対する障害者のアクセシビリティの保障を義務付ける法律ができました。これが、リハビリテーション法508条です。2000年には、この508条に「ウェブ上の情報やアプリケーション」が、この法律の対象となりました。
この法律は、2001年6月から施行されましたが、施行後は連邦政府がウェブを通じて提供する情報が、アクセシブルでない場合は、連邦政府各機関を訴えることができるようになりました。
2005年現在、施行から3年半が経過しましたが、この間に、連邦政府機関や州政府、主要都市のウェブサイトを中心に、ウェブアクセシビリティ向上へ大きな影響を与えています。
障害に基づく差別の禁止を確立するために、1990年7月26日に、アメリカ障害者法(ADA法:Americans with Disabilities Act of 1990)が制定されました。ADA法は、雇用、公共サービス、民間に運営される公共の施設およびサービス、通信の4分野において、障害をもつことを理由とした差別を禁止しています。
ウェブアクセシビリティに関しては、1996年に司法省が、ADA法はインターネットについても適用されるとの見解を示しています。
アシスティブ・テクノロジーとは、障害者の自立した生活を支援するためのさまざまな装置や技術をさす言葉です。日本語では、「補助装置」や「支援技術」と表現します。 アシスティブ・テクノロジー法は、アシスティブ・テクノロジー装置やサービスの供給を通した、障害をもつ個人の生活のコントロール向上、コミュニティ等への参加と関与、障害のない人との交流、障害のない人と同等の機会の獲得実現を目的としたもので、1998年に制定されました。
ウェブアクセシビリティとの関連では、アシスティブ・テクノロジー法の助成金を受けている州には、先に上げたリハビリテーション法508条が適用されるとしていますが、現在のところ、法的な拘束力はありません。
アメリカでは、ウェブアクセシビリティを連邦政府の調達基準にするリハビリテーション法508条が施行され、ウェブアクセシビリティの必要性については広く知られるようになり、対応の取り組みも進んでいます。現在では、リハビリテーション法508条へ対応した上で、如何に使いやすく実用的なウェブサイトを実現するかといった問題や、多くの組織が対応を実践するための支援の問題などが注目されているようです。
連邦調達庁(GSA:General Service Administration)では、障害者関連情報技術センター(CITA:Center for Information Technology Accommodation)を設置し、リハビリテーション法508条への対応を支援する様々な取り組みを行っています
障害者関連情報技術センターでは、508条に関するポータルサイト「www.section508.gov」を運営し、調達を支援するデータベース「Buy Accessible」の整備と提供、508条についての研修の取り組みを支援する「508 Universe」の提供、ウェブサイトの点検や修正を支援するプログラム「STEP508」の配布などを行っています。
対応技術面では、HTMLのアクセシビリティ確保に関する対応策については理解が広がってきました。しかし、PDFファイルのアクセシビリティ対応や、行政手続サービスなどのWebアプリケーションでのアクセシビリティ確保については、対応負荷が大きかったり技術的なハードルが多岐にわたるため、当面の大きな課題となっているようです。
1999年12月、欧州委員会は、情報化が欧州の雇用、成長、生産性に大きな影響を及ぼすと考えに基づき、情報社会のメリットを全ての欧州市民が受けられることを確保するために、電子欧州行動計画(eEurope 2002 An Information Society for All, Action Plan)を採択しました。これは、2000年3月の特別欧州理事会において、EUの重要課題である雇用、経済成長、社会結束を進める上で重要な政策であると位置付けられ、同年5月、eEuropeを改訂・具体化したeEurope2002が欧州委員会において採択され、6月の欧州理事会において、EU各国の首脳により承認されました。
eEurope2002は、3つの目標が掲げられました。
この目標を実現するために用意されたアクションプランでは、「障害者の電子的な参画」が盛り込まれ、この中で、インターネットのデザインと内容を障害者にアクセシブルにする取組みを行うことが示され、2001年末までに欧州委員会とメンバー国がそれぞれの公的なWebサイトに関して、WAIガイドラインを採択することが示されました。
EUでは、2000年11月にeEurope2002のアクションプランの実施状況を把握するために、ベンチマーキングプログラムを構築し、定期的な評価を実施しています。この評価結果を踏まえて欧州委員会では、2002年5月にeEurope2002を引き継ぐeEurope2005アクションプランの立ち上げを発表し、6月の欧州閣僚理事会で承認されました。eEurope2005では全てのアクションプランに「e-Inculusion」という指針が設けられ、全ての取り組みにアクセシビリティの考え方が包括的に含まれることとされています。
また、ヨーロッパ各国ではEUの枠組みの中で、アクセシビリティの向上を競い合うかのように、独自のアプローチで取り組みを行っています。例えばベルギーやイギリスでは、視覚障害者団体などが政府の支援のもとで公共性の高いサイトのアクセシビリティ対応状況の調査を行っていて、アクセシビリティに配慮されたサイトに対しては、独自のラベルを付与する取り組みも行われています。またイタリアにおいては、公共性の高いICT関連製品やサービスにアクセシビリティ確保を義務付ける法律が、2004年1月に成立しました。
カナダ政府は、2004年までに全ての政府の情報やサービスがオンラインで、いつでも好きなところから取得できることを目標に掲げています。これらのウェブサイトに障害の有無や地理的な条件や年齢にかかわらず、すべてのカナダ人が平等にアクセスできることを保障する基準を法制化しています。
基準を作ったのは、国家財政委員会事務局インターネットアドバイザリー委員会のThe Common Look and Feel 作業部会(CLF)です。2000年5月に、CLFが作成した基準とガイドラインを承認されました。同時に、Financial Administration法(財務管理法)のScheduleI,I1.II(http://laws.justice.gc.ca/en/F-11/index.html)に一覧表示されている全ての施設が、2002年12月31日までに従うことを求めました。
CLFの作成した基準は、以下の4つの基準とガイドラインから構成されています。
基準1.1で、全てのカナダ政府のウェブサイトは、最大限の人が容易にアクセスできることを保障するために、W3Cの優先度1と優先度2のチェックポイントに従わなければならないと、と定めています。
カナダ政府インターネット方針(Government of Canada Internet Guide)には、ウェブサイトを作るときの方針として、ユニバーサル・アクセシビリティに関する項目が示されていますが、2002年3月現在改訂中であり、CLF基準を参照するよう、注意書きされています。
オーストラリアでは、障害者がウェブを利用する際の権利を保障することが求められています。人権および機会均等委員会(The Human Rights and Equal Opportunity Commission (HREOC))は、障害差別撤廃法(the Disability Discrimination Act 1992: the DDA)第67条によって、World Wide Web Access: Disability Discrimination Act Advisory Notes(ウェブアクセスに関する障害者撤廃法へ意見書)を発行しました。Advisory Notes自体は法的にアクセシビリティを要求するためのものではなく、どのように差別を撤廃するかをアドバイスするために書かれたものです。ただし本文中に、オーストラリアでWWWを開発したり、オーストラリアにあるサーバ上にウェブページを置いたり、更新したりしているあらゆる個人や組織には、障害のある人にも平等に情報にアクセスできることを保障する障害差別撤廃法が適応されることが記されています。
また、HREOCは、連邦政府のウェブサイトが誰にとってもアクセシブルであることを保障する責任もあります。HREOCは、2000年6月から全ての連邦政府のウェブサイトはアクセシビリティ点検を行い、新しいサイトの契約をする時はアクセシビリティを主な達成目標に入れること、そして、12月からは全てのウェブサイトは、W3Cのガイドラインに従うことが義務づけられました。
2001年9月30日、香港特別行政区政府は、政府のウェブサイトのアクセシビリティを高め、民間組織やコミュニティに対するウェブアクセシビリティの啓蒙に努力するとのプレスリリースを発表しました。
政府の情報普及に関する委員会は、ウェブアクセシビリティに関するガイドラインを含む、ウェブページガイドラインを1999年に出しており、このガイドラインが、政府のウェブサイトのアクセシビリティ改善・向上の参考になるとしています。
政府は、障害のある人が政府のウェブサイトから簡単に情報を読み、取得できるように、少なくとも半数のサイトを2001年中に、残りは2002年中に、アクセシビリティの向上を行うことを目標としています。また9月28日に、アクセシビリティの普及活動として、政府は民間のウェブマスターやデザイナーを対象にセミナーを開催しているようです。 政府が2001年初頭に行った調査によると、公的機関等の半数以上は、すでに障害のある人にとってアクセシブルなサイトになっているか、またはアクセシブル改善を計画していることがわかったとしています。