では、「:::doc」を製作しようと思われたきっかけを教えてください。
山下晃弘准教授(以下、山下)私の研究室で、音声通信による視覚障害者サポートシステムを開発してきた経緯があり、視覚障害者の方とのつながりがありました。その中の一人から、「プリントアウトされた紙がすぐに読めないのが不便」と悩みを打ち明けていただいたのです。そこで、最初はファックスのような送信する機械を作り、点字を打つ点字機とつないで、墨字の印刷物を送信すると点字で出力される仕組みを作るのはどうかと提案してみました。でも、視覚障害者の方から「すでに出力された印刷物を点字に変換できた方がいい」という意見をいただいたことで、「:::doc」を発案するに至りました。
視覚障害者の方の協力も得て開発を進められたのですね。
板橋:はい、障害者協会に所属されている弱視の方で、ご自身も携帯型の点字機を独自で作られるなど地道に活動されている白川さんという方に、実際の生活シーンでどのような不便があるのかをヒアリングしながら開発を進めました。
ヒアリングを通して得られた発見はありましたか?
鴨下陽一さん:試作段階で出力した点字を読んでいただいたときに、「読みづらい」と言われたことは印象に残っています。点字には「分かち書き」という書き方・ルールがあって、所どころに空白を入れます。それを教えてもらってから、点字ならではのルールをプログラミングに反映しました。その作業は大変でしたが、改良したことで視覚障害者の方が点字を読むスピードが、明らかに速くなったので驚きました。実際に使ってもらって、反応を受けて改善できたことで、絶対に自分たちが気づかなかったであろうことを教えてもらえたと思います。
山下:点字の読み方はとても独特です。たとえば味噌ラーメンの「味噌」と「ラーメン」の間は空けませんが、醤油ラーメンの「醤油」と「ラーメン」の間は空ける必要があります。これは2文字の「みそ」に対して、「しょうゆ」は3文字のため、3文字以上の単語のあとは空けるというルールに則るものになります。このように、単語をそのまま変換するだけではだめなので、細かいルールをプログラミングに反映させていく必要がありました。これはとても時間が掛かることで、学生たちが注力したポイントです。
墨字のプリントを点字に翻訳する過程が大変だったと振り返る学生