30年にわたって事業を継続できている一番の強みは、私たちが利用者と一緒に何が良いのかということを打合せしながらシステムを作っているということです。
「私たちの求めているものではなくて、視覚障がい者が求めているものを作ろう」「普段遣いしてもらえるもの、『普段どこに行くのにも持っていれば安心だね』と言ってもらえるものを作ろう」という思いから、視覚障がい者の一番大きな団体である日本盲人会連合の方々と意見交換しながら開発を進めてきました。
その中で、当たり前のことですが、健常者には指摘されないとわからないことがたくさん分かってきました。
例えば、交差点では信号機の視覚障がい者用の押しボタンの位置が分からない、横断歩道には点字ブロックがないので真っ直ぐに歩くことができなくて横断するのに時間がかかる、市役所の玄関やトイレの入口、さらには自分の家の玄関が分からない…。アパートや公営住宅の玄関はすべて同じです。その中で、うっかり階を間違えてエレベーターを降りた時などに、なぜ玄関の鍵が開かないのかわからなくなってしまいます。これらの声を受けて、先に挙げた「シグナルエイド」を使った「音」「誘導路」「触知案内」の融合システムが生まれました。
「シグナルエイド」の様々な活用法
最近はよくスマートフォンに全部の機能を入れれば良いという意見を聞きます。「地図情報を出して見れば簡単」とも言われますが、視覚障がい者がスマートフォンを使えるのかというのがそもそも問題です。確かにアプリケーション等が既に出ていますが、30万人と言われている視覚障がい者全員が使えるかというと、残念ながら使えません。一番の問題は、スマートフォンで「ここですよ」と言われても、視覚障がい者には、「ここ」とは今の自分から見て360度のどの向きなのか認識できないのです。
視覚障がい者の立場に立った時、やはり目的の場所から音を鳴らすことが一番大事だと私たちは考え、「誘導チャイム」のように目的の場所から鳴ることにこだわって提案・設計し続け、現在、私たちの「音声標識ガイドシステム」は全国約3000カ所で導入されているのです。
さらに、視覚障がい者の意見を聞く一方で、健常者の意見にも耳を傾けてきました。その1つに、「騒音問題」があります。例えば、駅の改札口で鳴る「ピンポン」という音ですが、これは小さい音でもよく耳につく周波数で作られています。そのため、駅周辺にマンションなどがあると、赤ちゃんや夜勤明けの方が眠れないなどの苦情が駅に寄せられます。そうすると、残念なことにせっかくの音量が絞られたり、最終的にはシステムの電源を切られてしまいます。これが一番の問題です。
そこで、利用者が持つ小型の送受信機に反応して、必要な時だけ音声が流れる「音声標識ガイドシステム」や、周辺の騒音にあわせて音量が自動的に変わるシステムを開発しました。
また、全ての音が「ピンポン」では、視覚障がい者には、そこが改札なのか、券売機なのか、トイレなのかわかりません。そこで、そのピンポンという音を具体的な音声にしましょうということから、具体的な案内を流す音声案内装置も開発しています。