〜インターネットを使った録音図書の配信〜
社会福祉法人日本点字図書館は、平成16年4月1日、独立行政法人情報通信研究機構から「身体障害者向け通信・放送役務提供・開発推進助成金」の交付を受けることが決定しました。
本連載の第1回目は、同助成の対象となった新サービス「びぶりおネット」について、理事長の田中徹二さんに伺います。
社会福祉法人日本点字図書館は、昭和15年の創立以来、全国の視覚障害のある方々を対象に、点字・録音図書や雑誌の製作貸し出し、図書情報の提供、中途視覚障害者のための点字教室、盲人用具の開発と販売、点字図書の出版、触図の製作などの事業を行なってきました。
現在、26,396タイトルの点字図書と、15,612タイトルの録音図書を所蔵しており、来館者への貸し出しのほか、全国に郵送(無料)で貸し出しを行っています。こうした事業は、700名ものボランティアさんと、全国から寄せられる募金や寄付によって支えられています。
職員の皆さんによる毎日の郵送作業風景
(毎日、貸出図書を、2トントラックで郵便局に届けています)
今まで録音図書を全国の視覚障害のある方に聴いてもらうためには、録音されたカセットテープやCDを利用者に郵送するしか方法がありませんでした。そのため利用者は、郵送されてくるまで数日待たなければなりませんし、貸し出し中の図書は返却されるまで最低でも2週間は待っていなければなりません。
貸出用の録音図書 |
書庫の様子 |
録音図書のネットワーク配信サービス「びぶりおネット」では、今までテープに録音されてきた録音図書の音声情報をデジタル処理し、東京にある日本点字図書館と大阪にある日本ライトハウス盲人情報文化センターの2箇所のサーバー上に置いてあります。全国の視覚障害者は、自宅にいながら何時でもすぐに、インターネットでこのサーバーに接続し、好きな本を簡単なパソコン操作により聴くことができます。他の人が同じ録音図書を聴いていたとしても、終わるまで待っている必要はありません。
びぶりおネットのイメージ図
このインターネットを使った録音図書配信の仕組みは、平成14年度から3箇年にわたってサーバー側の配信用ソフトと利用者が録音図書を聴くために使うソフトの開発、録音図書のデジタル処理等を進めてきました。そして、平成16年4月1日からサービスの提供を開始しました。
なお、このデジタル処理の仕組みは、世界11か国が共同で国際標準化を進めているDAISYという規格に基づいています。
びぶりおネットは、視覚障害のある個人の方を対象にサービスを提供しています。ただし、点字図書館や盲学校、老人ホーム等、視覚障害のある方に限ってサービスを行っている施設も利用していただくことができます。
本サービスを利用するためには、ブロードバンド(ADSLやCATV、光ファイバー等)環境でインターネットに接続できる、音声読み上げソフトがインストールされたパソコンが必要です。その上で、びぶりおネットの利用申込みを行ってください。
費用として、録音図書を聴くための専用ソフト(ネットプレクストーク)の購入費8,000円とその年間維持費1,000円(毎年)が必要になります。ご家族で利用の場合も、一人ずつお申込みしていただく必要があります。
専用ソフト(ネットプレクストーク)の操作画面
現在のびぶりおネットの会員数は約600人です。まだ利用できる録音図書が約1,300タイトルと少ないため、今後はもっと利用できるタイトル数を増やしていきたいと考えています。そして3年後には、25,000タイトル、会員数4千人を目標としています。
ただし、1タイトルの録音図書を制作するまでに、とても数多くのボランティアさんの協力が必要です。一冊の本の録音時間は平均10時間ですが、朗読ボランティアさんが録音するのにその約5倍の時間がかかります。また内容を確認する校正ボランティアさん、DAISY図書にデジタル処理する編集ボランティアさんなども同様の時間を要して、ようやく1タイトルの録音図書ができるわけです。
ボランティアさんによる録音作業風景 |
編集作業風景 |
また、現在の著作権法では、視覚障害者用に著作物を点字に複製して送信することが認められていますが(第37条第2項)、録音に関しては複製行為は認められているものの、送信することが明記されていません(同条第3項)。したがって、びぶりおネットで録音図書を配信するためには、全ての著作権者に許諾を得る必要があります。そこで日本点字図書館では、日本文藝家協会と契約し、著作権処理について協会に委託した著作者の権利を放棄してもらう体制を確立しました。しかしその他の著作者については、一人一人許諾を得る手紙を郵送し、許諾を得てからサーバーに登録するという手順を踏んでいるため、なかなか思うように進みません。現在、日本点字図書館では、文化庁に対して、点字と同様に録音データもネットワークで配信できるように、本法律の改正をお願いしているところです。さらに将来は、著作者のご理解をいただいて、視覚障害のある方だけでなく、読書に困難をきたす人たちすべてに、このサービスが提供できればよいと願っています。
さらに、現在はパソコン利用のみのサービスですが、将来は携帯端末を使って、どこでも気軽に利用できるサービスにしていきたいと思っています。
びぶりおネットについての詳細と、お申込みについては、日本点字図書館のホームページにある「びぶりおネット」のコーナー(「びぶりおネット」のサービスは終了し、「サピエ図書館」に引き継がれています。)をご覧ください。
以下は、このページの奥付です
原本作成日: 2002年4月1日; 更新日: 2019年8月20日;