w
具体的にどのようなアクセシビリティの取り組みを展開されているのでしょうか?
楠敬太さん(以下、楠):たとえば聴覚障害の学生であれば、我々が「ノートテイク」と読んでいるサポートです。これは合理的配慮のために行っているもので、文字通り講義のノートを取る支援を指します。最近は音声を文字に変換する音声認識ツールが増えてきましたが、日本語の難しいところは、話し言葉と書き言葉に違いがあるということです。話している内容を耳で聞くと理解できるのに、それを忠実に文字に変換すると意味を理解できないことは多々あります。そのためアクセシビリティ支援室としては、音声認識ツールに頼らず、現状では人による文字変換が必要だと思っています。
そこで大阪大学の学生のアルバイトを募り、聴覚障害を持つ学生一人に対し、ノートテイクする学生(ノートテイカー)を3人つけるようにしています。2人が主にノートテイクを行い、1人が修正などのサポートにまわります。ノートテイクはある程度タイピング能力がないと難しいので、採用にはタイピングスキルのハードルを設けて、トータルで10時間程度の研修を受けてもらっています。卒業などによりメンバーが変わったり、ベテランと新人とで実力が変わったりするので、講義ごとにメンバーを調整する必要があります。
ノートテイカーにはパソコンから文章専用のソフト「IPトーク」を活用して文字起こしをしてもらいます。たとえば「おはようございます。今日の講義は現代の教育論についてです」と話したとします。その場合、ノートテイカーのAさんが、先に「おはようございます」と打ったら、すぐにもう一人のノートテイカーのBさんが「今日の講義は」と打ち、さらにAさんが「現代の教育論について」と続けてタイピングします。誰が何をタイピングしているか、IPトークを通じて即時共有されますので、イメージとしては“先に入力をはじめた人の文章を追いかけて奪っていく”ような感じでタイピングしていきます。
逆に、ゼミのようにディスカッションをするような授業の場合は、ノートテイクだとタイムラグが生じすぎてしまうのと、話し言葉のニュアンスが伝わったほうがいいだろうということで、Googleドキュメントの音声認識を活用しています。
他にも、弱視の学生には、教科書を裁断してPDFにして渡し、iPadに入れて講義に参加してもらうようにしています。iPadなどで活用できるアプリ「GoodNotes」などを使って、自分で読みやすいように調整しながら読んでいます。以前は、拡大鏡などがないと難しかったので、ICT端末の進化によって視覚障害を持つ学生の利便性は、かなり高まったと思います。
講義というのは、読む・書く・聞くというマルチなタスクが必要になります。身体障害の学生だけではなく発達障害の学生の中にも、それらが難しい場合もありますので、ノートテイクやiPadなどを活用しながら情報を保障するように配慮しています。
小学校教員を経て現職に就いた楠さん。障害者支援におけるICTの活用や特別支援教育にも詳しい