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ウェブアクセシビリティ・セミナー in 福岡 講演内容(概要)

2003年2月18日に福岡で開催したウェブアクセシビリティ・セミナーでは、セミナー参加者に対してアンケートを実施し、参加者のうち59名の方から回答をいただきました。

ご協力ありがとうございました。アンケート結果の概要は、以下とおりです。

目次おわり:

a. 基調講演:『ウェブアクセシビリティ確保の重要性』

講師: 香川大学教育学部 助教授 中邑賢龍 氏

中邑先生は、障害をもつ人々のコミュニケーション支援技術に関する研究の第一人者です。ウェブアクセシビリティとは何か、また教育の分野でのアクセシビリティの取り組みの重要性についてご講演いただきました。

講演内容(概要)

「情報アクセシビリティの重要性」について、説明する。ウェブアクセシビリティに疑問を感じている人は多いが、その重要性を理解するために、障害とは何かという根本に立ち返ることが必要である。

多くの障害者はアクセシブルなウェブを見たいというわけではない。欲しい情報を提供しているウェブサイトを見られないことが問題なのである。魅力的なコンテンツと、それにアクセスできることが一緒になり、はじめて多くの人に活用してもらえる。

情報を利用できない事態は3つ考えられる。一つは情報源にたどりつけない場合。二つめは、情報にたどりついたが情報を理解できない場合。三つめは、情報を理解できても、混乱する場合。インターネットは、情報を利用できない事態を打開する道具のひとつである。情報にたどりつけない事態とは、誰にでも起こりえることであり、IT機器を操作できない、ウェブ上でしか情報公開してない、などが挙げられる。たどりついたが理解できない事態とは、相手の話す言葉が分からない、目の前に情報があるが理解できない、字が小さくて読めない、真っ暗で見えない、というような事態である。情報を理解できても混乱する事態とは、たくさんの情報が混在していて必要な情報をみつけられない、情報があることは分かるがどれが正しい情報か分からない、判断が出来ない、などである。

情報アクセシビリティは誰のために必要か。誰もが情報入手に不自由する経験をする可能性がある。障害は誰もが持つ状態として捉えられるのである。病気やけが、加齢によって、障害(不自由)を経験する。環境条件によって経験することもある。WHO(世界保健機構)が国際障害分類の見直しを行なったが、そこでの障害の概念とは、「活動の制限や参加の制限」として捉えられている。この考えの浸透が、世の中を変えてきている。高齢化社会が進行していることもあり、世界的に障害観が変わりつつある。
障害という枠を超えて考えると大切なものが見えてくる。障害の別、障害の有無は関係ない。困った状態という視点から考えると、私たちの発想はつながる。障害という発想ではなく、困っているという視点にたってから始めることが重要である。そうすれば、ウェブアクセシビリティの視点も変わってくる。

情報の電子化とインターネットのメリットは、情報が電子化されることにより加工できるメリット、移動しなくても情報を入手し発信できるというメリットがある。電子化された情報は加工が容易で、拡大縮小したり、配色を変えたり、音声化したり、点字化したり、翻訳したりすることができる。また、移動しなくても情報を入手、発信できることは、誰にとっても便利であるが、なかでも運動障害や視覚障害のある人には重要な意味を持つ。そしてインターネットは、障害のある人が情報を発信するということにおいても大きな役割を果たしている。プライバシーの確保という意味でも役立っているケースが多々ある。例えば、インターネットを使えるようになったことで、ベッドの上から例えば排泄など大声に出して言いにくいことを、周りに知られずにメールで介護者に伝えるということが可能になった。

インターネットを誰もが利用できるためには、一つは情報機器のアクセシビリティ、もう一つはコンテンツのアクセシビリティを考える必要がある。情報機器のアクセシビリティについて、さまざまな不自由を改善できる多くのAT(支援技術)機器やソフトが市販されている。「こころウェブ」というホームページで公開されており、約1000点の製品を紹介している。

情報アクセシビリティの確保について、アメリカと日本を比べると、アメリカではリハビリテーション法508条がある。連邦政府に納入する電子機器は、すべての身体障害がある人が使えるものでなければならないというものである。これにより多くのメーカーが努力してきた。昨年、これに公的なホームページがアクセシブルであることという項目が追加された。枠を決めて守れと押し付けるのがアメリカであり、このため、ホームページのアクセシビリティが進んでいる。この法律をみると、アメリカは障害のある人に優しいと考えられるが、必ずしもそうではない。アメリカなりの考え方、ビジネス化ということが背景にある。そこには、ビジネスチャンスを生み出す誘導がある。つまり、アクセシブルなものを作るとき、ベンチャーや中小企業が立ち上がる。また、障害者が働けるようになり、納税者になり、補助金を出さずにすむ。このような、大きなビジョンの中で法律を作り上げている。

教育現場でも、アメリカは統合教育を行い、大学の中で障害のある学生を積極的に受け入れている。そこでは、電子機器が不可欠であり、それによってサービスを提供している。多くの学生を確保するために、アクセシビリティを確保し、さらに卒業した学生が納税者となるような循環を生み出している。

日本では拘束力のある法律はないが、総務省などで多くの取り組みがある。しかし、ウェブアクセシビリティの先のビジョンが欠けている。障害のある人が見られないからアクセシブルにしなければならない、とういうことだけでは世の中は動かない。全体のビジョンの中でウェブアクセシビリティをどう位置づけるか、青写真を描いていかなければアクセシビリティは広がらない。

情報アクセシビリティの確保はいったい誰のためのものか。あなた自身のためかもしれない。これには2つの意味があり、一つは障害を持ったときのため、もう一つは、そこにビジネスチャンスがあるのではないか、ということである。

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b. 講演:『ウェブアクセシビリティへの取組 〜教育の現場から〜』

講師: 福岡市立南福岡特別支援学校 教諭 福島 勇 氏

実際の教育の現場でIT指導にあたる先生から、授業でのウェブの活用とアクセシビリティ確保の課題についてご講演いただきました。

講演内容(概要)

平成14年度は、新しい教育のはじまりといわれている。新しい学習指導要領の完全実施にあたり4つのキーワードが挙げられた。完全学校週五日制、ゆとりの中での特色ある教育を展開する、基礎的・基本的内容を身につけさせる、自ら学び考えるなどの「生きる力」をはぐくむ、である。また、文部科学省が示す「新しい情報教育に関する手引き」では、「生きる力」をはぐくむために必要な事柄として、情報活用能力は生きる力の重要な要素ととらえる、情報機器およびインターネット接続環境を整備する、などを挙げている。情報活用能力とは、情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度、である。情報活用の実践力とは、課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含め、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力である。情報の科学的理解とは、情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解である。情報社会に参画する態度とは、社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度、である。

本校での情報活用能力を育成するための取り組み例を紹介する。まず、教室のパソコンから情報を得て、天気予報やニュースを朝の会で発表する。二つ目に、総合的な学習の時間の取り組みとして、新聞作りをしている。インターネットで調べ、自分たちで見やすいように加工して、ウェブにのせて世界の人に見てもらおうという取り組みである。3つ目に、百科事典の代わりとして使っている。四つ目は、学校のウェブページの作成・メンテナンスである。本校独自な取り組みとして、校外に出て勉強するための情報をインターネットやメールを利用して調べることを行っている。このほか、買い物学習というものも行っている。体の不自由な子どもたちにとって、一人でショッピングするのは難しい。したがって、インターネットショッピングを学校に在籍しているときに勉強したほうが良いのではないだろうかという考え方である。

また、学校としては携帯電話を持たせて勉強に活用させたいが、教育委員会で決まりがあり、できない。しかし、今後の子供たちの社会参加を考える上で、誰もが便利に使う機器を勉強する場は学校しかない。

ウェブサイトにアクセスする上での問題点としては以下のようなものがある。コントラストが悪いサイトは、多くの子どもたちにとって見えにくい。また、リンク先のボタンが小さいと、マウスをうまく操作できない人にとって使いづらい。漢字ばかりで見づらいという問題もある。コンテンツによっては、小学校一年生が見ると仮定して、配慮がなされるべきではないかと思う。また、携帯電話に対応していないウェブサイトが多い。つまり、誰が、いつ、どういう状況で見るかが考えられていないのである。

ウェブヘルパーというチェックツールを利用して、福岡市内の小中学校幼稚園のウェブアクセシビリティについて調査した。福岡市立小学校147のうち、87校がウェブサイトを持っており、レベルAは21校にすぎない。

今後の教育界の課題は、どういう人がウェブサイトを見ようとしているのか、受け手の立場を考え、教員がウェブサイトの作り方を教えるだけでなく、どのような要素が必要なのかを伝えるべきである。どうやって情報を取捨選択して、その中から必要なものを加工していくか。その背景には、どんな人にも、障害があっても、利用できるコンテンツ・機器などをつくるという考え方がある。この事を子供たちに伝える必要がある。

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c. 講演:『ウェブアクセシビリティのポイント 〜子どもに使えるホームページと使えないホームページ〜』

講師: 香川大学電子情報支援技術研究センター 研究員 高橋幸太郎 氏

ウェブアクセシビリティをどう子供たちに浸透させたらよいか、具体的な例示をもとにご講演いただきました。

講演内容(概要)

学校のホームページの役割は主に2つある。一つは、対外的に学校の情報を伝えることであり、もう一つは、子どもたちの学習に利用することである。

学校のホームページを作っていく上では、子どもたちにとって何度も使いたいと思えるようなホームページか、他の誰にも使えるものであるかどうか、という視点を持つと良い。

ある国立大学の付属学校のホームページを見ると、学校が伝えたいことを書いてあるだけで、子供たちが使うということは意識されていない。一方、板橋第一小学校のホームページでは、子どもたちが研究した成果を紹介しているページ、給食室のホームページ、インターネットタイムカプセルという過去に卒業生が作ったページなどがあるなどの特徴がある。最低限必要な情報だけでなく、欲しい情報、面白い情報が随時更新されているページは、何度でも活用したいと思えるのではないだろうか。

また、優れたコンテンツがあったとしても、誰もが活用できるかということは別の問題である。子どもたちは、書かれている文字を読んで意味がわからない、どこに自分の欲しい情報があるかわからないことがある。子供だけでなく、大人も気づきにくい場合もある。情報を整理分類して適切なタイトルなどわかりやすくすることが大切である。また、子どもは難しい漢字や言葉がわからないということがある。読み仮名をつけるソフトや辞書を引くソフトなどを利用し、環境を整えることが役立つ場合がある。

障害がある場合にホームページ利用でどのような問題が生じるかを紹介する。肢体不自由のある場合は、マウスポインターを正確に利用するのが難しい。それに対しては、リンク箇所を大きくするという配慮ができるだろう。視覚に障害がある人は、スクリーンリーダーのような画面読み上げソフトを利用するが、読み上げだけでも意味が通じるようにリンクテキストを用意し、それらを適切な順序で並べる必要がある。聴覚に障害がある人は、音声の情報が理解できないので、イメージをテキストやイラストで説明する。知的障害がある人の場合、文字の情報が理解できないことがあり、イラストをつけることによって意味がわかるということもある。

また、子供達が積極的にインターネットを使っていく上では、ネット上の危険性もある。例えば、バナー広告につながったり、出会い系サイトにリンクが張られていることがある。学校の先生が注意していても、リンクの中に入ってしまうことがある。子どもたち自身が防ぐというのは難しい。そのため、有害情報を排除するソフトやサービスを利用する。しかし、すべての有害情報から、子どもを遠ざけるのは難しい。文部科学省によってつくられた、情報社会の危険を学ぶための「情報モラル研修教材」というソフトを使う方法もあるだろう。

子どもたちに対して、使いやすくするための配慮をすると、障害者に対する使いやすさを高めることもできる。また、障害のある人に対する配慮は、子どもたちの使いやすさにもつながる。子どもに使えるホームページとは、何度でも活用したいコンテンツであり、さまざまな人が使うことを想定して配慮がされているページである。まずは、子どもが使うことを考え、それには、どのような内容だったら面白いか、子供にとって使いやすいページか、ということからはじめるのが良いと思う。

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d. 講演:『ウェブアクセシビリティの実現方法』

講師: 株式会社インフォ・クリエイツ バリアフリー研究所 研究員 硲野彰仁 氏

アクセシビリティを確保するための具体的なテクニックや各種ツールの活用など、実践面を中心にご講演いただきました。

講演内容(概要)

デジタルデバイトとは、文字が小さい、画像に説明が無いなどのため、情報にアクセスできない人がおり、そのために普通の人に比べて経済的格差が生じることである。具体的には、普通の人にはわかっても、全盲の人、弱視の人には、ホームページ上の製品の情報がわからず、買うことができない、という場合などを指す。

質問をいただいたスタイルシートの効果的な使い方について、デジタルデバイドの具体的な例と合わせて紹介したい。(IBMホームページを例にスタイルシートとその効果についてデモンストレーション) スタイルシートを有効にしたときは、製作者が意図したようなデザインになる。スタイルシートで見栄えを制御してあるページは、ユーザー側でブラウザの設定変更により、見やすく自分の好みの設定にすることができる。

私はここ2年間日本アイ・ビー・エムのホームページをはじめ、多くのサイトのアクセシビリティ対応を担当してきた。その経験をもとにお話しする。デジタルデバイトの解消について、アメリカには508条がある。しかし、基本的に英語を使っている人たちが作ったガイドラインであり、日本語のことはあまり考えられていない。例えば「目次」という単語の文字の間にスペースを入れて「目 次」とした場合、音声でなんと読み上げるだろうか。「めつぎ」と呼んでしまう。このような日本語特有の問題も考慮して、インフォ・クリエイツのアクセシビリティ対応のソリューションは作成されている。インフォ・クリエイツでは、拡張診断と基本診断の2つの方法で、各ページのアクセシビリティ対応を進めている。基本診断とは、HTMLの文法レベルで構文チェックする。拡張診断とは、肢体不自由者や視覚障害者が、実際ページを見て判断するものである。多くのサイトを調査した結果、問題が集中したのは次の2点であった。1.すべてのページにタイトル表示をつける。2.すべての画像に代替テキストをつける。様々な問題項目がある中で、問題数全体のほぼ9割の問題が、これらの項目に集中していた。

このような問題の修正の方法について、ホームページビルダーのアクセシビリティチェック機能を使って具体的に紹介したい。ツールのアクセシビリティチェック機能を設定し、ツールのオプションで「HTMLの自動修正」、ファイルメニューの「ドックタイムチェック出力」、「HTMLのソースにジェネレータを組み込む」項目のチェックをはずす。チェックを行うと、問題点が列挙されるので修正する。例えば、説明のない画像に対して文字を入れる、スクリプトの場合はノースクリプトタグに説明を入れる、意味のない情報はつけない、などの対応を行う。これらの対応を行うことで、最低レベルのアクセシビリティは確保できる。

音声ブラウザがどのようなものかを紹介する。本来は全盲の人のためのソフトであるが、健常者が使用してもインターネットエクスプローラーと同じようにウェブから情報を得ることができる。また制作者は、アクセシビリティ上の問題を発見するためのツールとしても活用することができる。(メニュー画像に代替テキストが入っていない例と修正後の音声読み上げの違いをデモンストレーション)例えばメニュー画像に代替テキストが入っていないと、音声ブラウザではどのようなリンク先かを把握することができない。適切な代替テキストが入っていれば、目で見ているのと同じようにどのようなリンク先かが分かるようになる。

アクセシビリティを肢体不自由者にも視覚障害者にも、一つのページで、すべてに対応させようとすると、いびつなものになり、使いづらくなる。したがって、ページの対象者は誰なのかを考えて、対象者に合わせたアクセシビリティ対応をしていくことが重要だと思う。ウェブページのアクセシビリティ対応について、One for allというのは無理ではないだろうか。経験から言えることだが、アクセシビリティは一度対応しても時がたてば、アクセスし易さが失われているケースが非常に多い。アクセシビリティについては、ぜひともこまめに対応する努力をしてほしい。

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e. 発表:『ウェブヘルパーおよび総務省実証実験のご案内』

発表者: 実証実験事務局

総務省が取り組んでいる「高齢者、障害者等が利用しやすいホームページの普及に向けた支援システムの実証実験」について、支援システム(ウェブヘルパー)の概要やこれまでの取り組み成果について中間報告をしました。

発表内容(概要)

総務省では旧郵政省時代から、ウェブアクセシビリティに対する取り組みを行っている。平成11年「アクセジブルなウェブコンテンツの作成方法に関する指針」はIT戦略会議の資料としても公開されている。平成12年度にウェブアクセシビリティ支援システム(当時はJ-WAS、現在はウェブヘルパーと呼んでいる)の開発を進めた。これを使い、平成13年度から、ウェブアクセシビリティ実証実験を実施している。昨年度の実証実験は、WCAGに基づいて、ホームページのHTMLをチェックし、利用を通じてウェブアクセシビリティの普及・啓発に努めた。その取り組みは二つに分けられる。一つは、支援システムの開発と公開であり、サーバー版のシステムをASPで利用できる形で無料公開した。二つ目は、仙台、岡山、福岡で、サイト提供者の企業、自治体のウェブ担当者、利用者側として高齢者視覚障害者に協力してもらい、提供者と利用者の意見交換会など行った。地域が発信しているウェブのアクセシビリティ向上に努めている。

昨年度の実証実験では主要サイトのウェブアクセシビリティ変化も調べた。J-WASで自動的に点検できる範囲でどのくらいエラーが出るか、実施開始時と終了時で比較した。

今年度の取り組みは3つに分かれている。ASPで公開したウェブヘルパーのCD-ROM版の開発、全国でのセミナーの開催、アクセシブルサイトコンテストの実施である。

CD−ROM版とサーバー版との違いは、サーバー版はインターネットに公開しているコンテンツを点検するものであるが、CD−ROM版はさらにウェブ製作者側のローカルなHTMLファイルを点検することが可能で、サーバーにアップロードする前に点検できるようになっている。また、付加機能「ALTテキストエディタ」、「フォルダー一括簡易点検」機能、「文章構造チェック」がある。

ウェブアクセシビリティは、普及に関していくつか課題がある。例えば優れたアクセシビリティを持つページをアピールする場がなかなかない。また、アクセシブルなホームページを作成する際、製作者としてどう問題を解決して実現している例があるのか、参考になる例が少ない。そのような背景からアクセシブルコンテストを実施している。アクセシビリティに配慮し、さらに見た目にもより美しいとなどの事例をあげていく試みである。これには2つ部門がある。既存ホームページの部では、民間企業、公共または個人ページによって公開されているページで、アクセシビリティに配慮されているものを募集している。オリジナル作品の部では、クリエイターを対象に、「みんなのウェブ」の主要ページをアクセシビリティに優れたオリジナルページにしてもらうものである

「みんなのウェブ」という実証実験のページを公開し、ウェブアクセシビリティの確保に役立つ情報を載せているのでご覧いただきたい。

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f. パネルディスカッション

講師全員にお集まりいただき、セミナーに参加いただいた会場の皆さんと「教育分野におけるウェブアクセシビリティの意義と取り組み」というテーマについて、ディスカッションを行いました。

一つめのテーマ

内田: 学校にとってウェブサイトというのは何か。学校の案内なのか、情報発信をするものなのか。その目的は何か、誰が主体なのか。

福島: 学校にとっての役割を考えると、学校の案内でもあり、情報発信の場でもある。どちらの要素も満たしているべきものだと考えている。かつて学校に掲示されていた壁新聞が、ウェブ上に公開されていると考えてよいのではないだろうか。壁新聞を作っていたのは子供であったが、ウェブではそれに教員がかかわっている。誰が見るのかということを整理することが大切である。

内田: 子どもたちと先生とがコラボレーションすることによって、子どもたちがホームページを作るということ自体が、新しい教育につながるのではないか。

福島: 地域や学校の特色を活かす、総合的な学習の時間でよく利用されるのがウェブ制作である。そのなかで、教員と子供がコラボレーションしながら、総合的な学習を進めていく。それは、地域との連携というキーワードとしても考えられる。コラボレーションする幅を広げられる要素がある。地域に住んでいる障害者などに、ウェブサイトを評価してもらう、一緒に作るということも考えられるのでは、と期待している。

二つめのテーマ

内田: アクセシビリティに考慮した制作をしようとするとコストがかかるのでは。アクセシビリティを考えてページを作る体制づくりはどうしたらいいのか。

中邑: アクセシブルなホームページを誰もが作らねばならないと考える必要はない。デザインの自由があり、例えば個人の趣味のページはどのように作っても良い。しかし、社会的責任のある企業や公的なホームページについては、誰でもアクセスできる必要があるだろう。学校のホームページには2種類ある。ITリテラシー教育としてのホームページ作りは、子供の作品を貼り付けるなど他者が見ても意味がわからないかもしれないが、作る子供にとっては意義があり、ここでアクセシビリティを論じる必要はない。だが、公的な機関としての学校のホームページは、アクセシビリティを確保しなくてはならないと思う。また、米国に比べると日本では、障害のある方でパソコンを使って情報にアクセスしたいというユーザーが少ない。企業がサイトを作るのは、直接的なお金のバックを期待しているのではなく、間接的な効果=商品が売れることを期待している。したがって、もう少しマーケットが広がっていかなければ、アクセシビリティについて理解が広がるのも難しいかもしれない。ただし、少なくとも公的機関は税金を使っているわけであるから、対応すべきである。障害のある人の中でホームページを見たいという人が増え、その人達の声が企業や自治体に伝わるようになることが重要である。

三つめのテーマ

内田: 子どもだけの教育ではなく、成人への教育が必要なのではないか。

中邑: 子どもが減少するにつれ、学生をいかに確保することが問題となり、大学が生涯学習として間口を広げようとしている。そのなかで、アクセシビリティに対応したホームページを用いることは、大学にとってアピールできるところだと思う。

福島: 文部科学省から、すべての養護学校、盲学校、聾学校などに、地域の支援センターとしての機能を持たせるよう、指導が出されている。これが広がっていくのではないか。

四つめのテーマ

会場: アクセシビリティの向上に貢献できる人材の育成が必要と思うが、誰を対象に、どのような内容で行っていくのか、プログラム開発の展望はどのようなものか。

中邑: 支援技術、ハードウェア部分に関する研修プログラムが開発され、オンラインで公開される予定。これは、経済産業省の開発した、支援のためのハード中心のプログラムである。

硲野: 企業、制作会社向けの研修を不定期に行っている。

内田: 民間事業者では、クリエーター向けの研修を行っているところがいくつかあり、有料の講習プログラムを作って行っている。公共機関、省庁や自治体の担当者がウェブアクセシビリティの技法や考え方を体系立てて学ぶという部分が、弱いと感じている。日本も自治体、関連団体、政府それぞれに認識を深め取り組みを行ってほしい。

五つめのテーマ

会場: インターネットを利用する人数が少ないからビジネスにならないとのことだが、言語上の問題を持つ聴覚障害の方が参加すれば増えるのではないか。

中邑: 先天聾の方は音声言語の習得が容易でない場合があり、IT機器を学ぶことが難しいという問題がある。しかしこれは、アクセシビリティとは別の問題として、切り離して考える必要があり、教育の問題であると思う。一方、聾の方にとって、手話はひとつの文化である。今後は、手話を介したコミュニケーションができるサイトが生まれてきてもおかしくない。また例えば欧米では失読や失書という障害が多いという背景があり、文字が読めない人向けに絵画シンボルを使ったホームページやメーリングリストも立ち上がっている。

六つめのテーマ

会場: 学校のホームページなど、製作者の趣味の範囲でウェブが作られており、情報が構造化されていないということがあった。アクセシビリティの認知が低いのでは。

内田: 自治体ホームページは、初めのころ、趣味で作ったようなページが多かった。だが、現在は変わってきており、住民のための情報へと、担当者の関心は徐々に高まってきている。学校のホームページも変化がでてくるのでは。アクセシブルなサイトの良い意味でのステレオタイプ、モデルになるようなものができたほうが良いのではと考えている。

福島: サイトにアクセスする人が選択できるサイトを作るようにすることが求められているのではないか。そのうえで、学校、地域の特色を出していけばよいと思う。学校でのウェブアクセシビリティについて語られたのは、この場が日本で初めてではないかと思う。アクセシビリティという言葉自体を教員が知らないのではないか。最初の一歩を踏み出したと思う。これを伝えていってほしい。

硲野: アクセシビリティへの配慮としては、以下の考え方が重要である。例えば、見る側に色の選択の自由を与えて欲しい。これが見やすいだろうと制作者が決めるのではなく、ユーザーがカスタマイズできるようなHTMLを提供する。ブラウザはユーザーが見やすいように設定をカスタマイズできる。

七つめのテーマ

中邑: アクセシビリティに関して、コンテンツの問題とアクセスするための支援技術を同時に論じていく必要がある。ぜひ省庁を超えた連携を進めてもらいたい。また、文部省では現在「初等中等教育におけるIT活用マニュアル」を作成中である。この検討委員である小中で最先端の取り組みを行っている先生方にアクセシビリティを論じる機会があったが、どなたもご存じなかった。この総務省の実験もこのまま終わらせてしまうのでなく、例えば文部省を通じて学校への伝達を深めるといった展開が必要だろう。

内田: 最近は、省庁横断的に協力してもらっていると感じている。今後にも期待したい。

八つめのテーマ

会場: 北九州の例だが、教員が、ホームページビルダーの「どこでも配置モード」を使ってレイアウトしていることが多く、サーバーにアップするとレイアウトが崩れてしまう。

硲野: レイヤー機能はあまり使わないほうが良い。

福島: 市町村、県単位で教員向けに研修をしている。もしかしたら北九州では、研修の際に「便利ですよ」という一つの例として紹介をしたのかもしれない。おそらくその使い方だけ受け入れられてそのまま定着してしまったのではないだろうか。教員向けの研修は、教員が子どもに教えるときのことも配慮するべき。新しい教育の始まりとして、しっかり考えていきたい。

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