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日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)の活動と遠隔情報保障(2/4)

2 10年間の活動

  第一に取り組んだのは、聴覚障害学生支援のノウハウを集約していくということでした。例えば、一般の大学の先生方は、聴覚障害学生支援と言われても、どういうことかも知らないし、どういう支援をしたらいいのか、支援にどんな意味もあるかも分からないわけです。それで、それらを伝える教材をたくさん作りました。例えば「TipSheet」というのがあります。アメリカで使われていたものを日本でも真似して作ったんですが、「聞こえないってどういうこと?」「ノートテイクって何?」というような支援に係る基本的な知識を、テーマごとに1枚ずつシートにまとめたものです。また、高等教育での聴覚障害学生への支援活動で重要な方法の一つに、教室での教員の講義を聴きながら、情報保障者(支援者)が話された内容を文字にして障害学生に伝えるノートテイクという手段があります。障害学生の両側に座った情報保障者が、2人で交互にノートに書き、見てもらう「ノートテイク」と、2人が連係 してパソコンに入力して画面を見てもらう「パソコンノートテイク」がありますが、それらの具体的な方法や指導法をマニュアル化して「大学ノートテイク支援ハンドブック」をはじめとする 書籍・冊子にしました。

  日本でまだまだノウハウが蓄積されていない内容については、連携大学・機関の方とともに何度もアメリカに視察・研修に行き、ノウハウを吸収しました。それで得た知識を報告集にまとめたりもしました。

  先駆的な大学にあるノウハウを、他の大学とも共有していく、というのが活動の第一段階とすれば、どこの大学にもない新しいノウハウを生み出すというのが次のステップでした。例えば、学内で手話通訳を取り入れたいが、その評価をどうするかとか、パソコンを使うノートテイカーのスキルアップを図る手法にはどんなものがあるかとか、コーディネーターの専門性をより高めていくにはどうしたらいいかと、自分たちが抱える悩みを話し合いながら、新たな知識を生み出していく活動を続けました。そうした成果は「一歩進んだ聴覚障害学生支援」という本にしたり、「パソコンノートテイクスキルアップ!教材集」として冊子や練習ソフトウェアを発行したり、「大学での手話通訳ガイドブック」などにまとめたりしました。

  また、各大学における支援実践に関する情報の交換や, PEPNet-Japanの活動成果をより多くの大学・機関に対して発信するため、2005年に第1回シンポジウムを開催して以来、毎年シンポジウムを開いています。今年(2014年)は10回目を迎え、11月9日に、つくば市のつくば国際会議場で約500人が参加して、講演、ディスカッション、支援に関する機器の展示、各大学の活動紹介、遠隔情報保障などをテーマとした分科会などが開かれました。年々全体の参加者が増えていますが、中でも、学生の参加が多くなり、従来は教員、職員、学生がちょうど同比率だったんですが、今回などは学生が半数以上を占めました。

つくば市で開かれた第10回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムの全体会議 (PEPNet-Japan事務局提供)
  つくば市で開かれた第10回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムの全体会議 (PEPNet-Japan事務局提供)

同シンポジウムの中で行われた各種の情報保障支援システム機器や各大学の活動などを展示したランチセッション(PEPNet-Japan事務局提供)
  同シンポジウムの中で行われた各種の情報保障支援システム機器や各大学の活動などを展示したランチセッション(PEPNet-Japan事務局提供)

  次の段階に進む中で、大きなインパクトになったのが、2011年3月の東日本大震災でした。被災地の大学では、それまで一定の支援体制を構築してきていたわけですが、支援する教職員や学生たちも自分の生活もままならない状況になってしまい、これまでの支援体制を取り戻すまでには、多大な時間と労力を費やさなければなりませんでした。大学の講義は5月から始まりましたが、それに向けて障害学生への支援を再構築する作業は、被災地の大学にとって負担がものすごく大きいものでした。それで我々も何かできないかと考え、全国の大学で聴覚障害学生支援に携わっている学生さんたちを募って、東北地区大学支援プロジェクトを立ち上げ、遠隔地からの情報保障に取り組みました。支援を担当したのはPEPNet-Japan連携大学・機関を中心に13大学にのぼり、東北地区の4校計17人の学生が支援を受けました。その内容は後程、三好先生からご説明があると思いますが、スマートフォンを利用したモバイル型遠隔情報保障システムを利用しました。

  こうした活動を通じて、これまで行ってきたようなノウハウを蓄積し、教材として配布する形の活動だけでなく、自ら「事例」を生み出す活動を行っていこうとする気運が高まりました。すなわち今までだれもやってこなかったことを積極的に行い、自分たちにしかできない取り組みを生みだしていこうという方向性です。

  そうした動きの中で今、我々が取り組んでいるのが、東北や関東といった地域ごとに、一つ一つの大学同士を繋ぎ、ネットワークを作りあげていく取り組みです。PEPNet-Japanは地域の中核となる大学同士間のネットワークですが、東日本大震災の時には、この中核大学を中心とした地域の個々の大学同士のつながりがいかに大事かということを実感しました。

  また、二つ目の取り組みは遠隔情報支援で、先に話したようなプロジェクトの経験をふまえ、日常的にこうした支援を活用していくためにはどうすればよいのかを考え、実際に試してやってみるという活動にも取り組んでいます。

  この他、障害学生への情報保障というと、どうしても支援する側の学生の質によるところが大きいので、学生が主体的に支援にかかわっていくには、どんなことをしていけばいいのかという事例も構築しようとしているところです。支援に携わっている学生にはノートテイクの技術練習や、パソコンノートテイクの入力スピードを上げる練習等も必要ですが、あまりスキル偏重になってしまうと、どこかのタイミングでモチベーションを落としてしまい、支援の活動から離れていってしまうことがあります。そのため、聞こえない学生の声を聴くとか、一緒に活動する等の活動を通して、支援の意味づけをすることが重要で、こうすることで自ら積極的にスキルアップに励むようになるようです。ですから、現在はこうした目的意識をもって複数の大学間で実際に「事例」を作りあげ、これを発信していくことを現在のキーワードとしています。これがPEPNet-Japanの活動の第3段階といえるでしょう。

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