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情報アクセシビリティとは何か(5/6)

5. 誰のための情報アクセシビリティか

法で定める障害者の範囲

本資料では「障害者」という表現と「高齢者・障害者等」という表現を区別して用いてきました。筆者は「高齢者・障害者等」が好ましいと考えています。その理由を説明しましょう。

法律では、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものを身体障害者といいます。条件は「両眼の視力がそれぞれ0.1以下のもの」等、具体的に定められています。障害者とは、このように定義された人々だけを指すのでしょうか。両眼の視力の和が0.3であれば、視覚に関わる問題は生じないのでしょうか。どうもそうではなさそうです。

身体機能の能力の分布と法律の関係を示したイメージ図です。図の次に詳しい説明があります。
図4 身体機能の能力の分布(イメージ)と法律の関係

 

すべての人々について、視覚、聴覚といった身体機能の能力を測定すると、それは、図4のように分布しています。1キロメートル先のライオンを見ることができる人もいれば、視力をまったく失った人もいます。多くの人々は平均的な視力を持っているので、中央付近の人数が多くなります。こうして全体の分布は正規分布となります。

さてこのような分布を前提とした上で、障害者福祉の対象範囲を決めるとしましょう。まず、ある条件で範囲を定め、それが図4に「法律等で定義する限界」として表されているとします。その範囲を拡大しようとすると、この限界の線を右に動かすことになります。正規分布の曲線が右に向かって増加しつつある領域であることに注意すると、限界の線を右に動かすと対象人数が急増します。逆にその範囲を縮小しようとすると対象人数が急減します。このような前提の上で、政府は予算で確保された資金の範囲内で、障害者福祉の範囲を決定するのです。それが「法律等で定義する限界」です。このような決め方であるので、日常生活に困難をきたすかどうかよりも、予算の範囲でカバーされるかどうかのほうが、政府にとっては重要事項となります。こうして、日常生活に困難を感じている人々の中に、法律の対象とされないで取り残されてしまう人々が生まれています。

民間企業がビジネス対象とする範囲

身体機能の能力の分布とビジネスの関係を示したイメージ図です。図の次に詳しい説明があります。
図5 身体機能の能力の分布(イメージ)とビジネスの関係

情報アクセシビリティを実現していくために民間企業から協力を得るとしましょう。民間企業にとっては、市場は大きければ大きいほど魅力的です。図5を見てください。図中に「民間企業がビジネスの対象とする限界」と表示された線よりも右側で、民間企業がビジネスを営んでいるとします。その線を左に動かすには、提供する製品やサービスに改良が必要です。しかし、左に動かしたとしても、正規分布の曲線は左下がりなので追加される人口は少ないのです。動かせば動かすほど、正味で追加される人口は急減していきます。正味で追加される人口が減少していくということは、期待される収益、すなわち正味で追加された人口が機器やサービスを購入することによって得られる、正味の増収分も減少していくということです。製品やサービスに対する追加投資の額と、この増収分とがバランスする限界以上には、企業は投資をする意欲を持たないことになります。これによって、民間企業がビジネスとする対象の範囲が決まります。それが「民間企業がビジネスの対象とする限界」という線なのです。

改正障害者基本法は、民間企業に対して、「社会連帯の理念に基づき、障害者の利用の便宜を図るように」という努力義務を課しています。「民間企業がビジネスの対象とする限界」と表示された線を左に、すなわち法律で障害者と定義される範囲の内側まで動かすようにと要請しているわけです。しかし、企業がビジネスとして取り組むかどうかの判断基準は収支です。収支が合わないビジネスを積極的に進めるということはむずかしくなります。

「高齢者・障害者等」と表現する意味は

ここまで障害者とは何かという定義に関わる議論を行ってきました。法律などで定義される対象者の限界も、企業がビジネスの対象とする限界も、ともに人間の身体機能の能力が正規分布で分布しているということに基づいて、決められています。政府には施策に投下できる予算に限界があり、企業には収支による限界があります。そこに経済的な原理が働くのです。日常生活に困難を感じるが障害者福祉の対象とはされない人々が存在するのは、そのためです。筆者が「障害者等」と「等」を付けるのは、日常生活に困難を感じるが障害者福祉の対象とはされない人々についても配慮して欲しいからなのです。

人間の身体機能の能力は、加齢とともに低下します。老化が進むと視力は低下し、また老眼になります。白内障が進めば、色彩に対する感度も低下します。聴力も同様です。20歳の分布では、法律上、障害者と見なされる割合は少ないです。40歳、60歳と年を重ねるにつれて障害者として扱われる割合が増えていきます。80歳では、さらに障害者比率が増えています。

法律的には障害者として取り扱われないとしても、加齢によって日常生活に困難を感じている人々の比率が高くなります。これを「高齢者は軽度の障害者である」と表現することがあります。

アクセシビリティを確保した情報通信機器、ソフトウェア、サービスを世の中に普及していくには、それに取り組むことがビジネスとして成立することが必要です。加齢とともに人々の身体機能の能力が、障害者のそれに近づいていくのであれば、「障害者」という形で市場の規模を表現するよりも、「高齢者+障害者」として市場規模を示したほうが、民間企業を説得しやすくなります。「高齢者・障害者等」という表現を用いてきたのはそのためです。

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